文学・文具・文化 趣味に死す!

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第169回芥川賞ノミネート作品 乗代雄介「それは誠」(文學界6月号)を読んだ

 

乗代氏は今回4度目のノミネート。ちなみに、過去3作品は全部読んでいる。

 

第166回芥川賞候補作 乗代雄介「皆のあらばしり」 を読んだ - 文学・文具・文化 趣味に死す!

 

旅する練習 を読んだ 第164回芥川賞候補作 - 文学・文具・文化 趣味に死す!

 

最高の任務 乗代雄介 を読んだ 芥川賞候補作品 感想 レビュー - 文学・文具・文化 趣味に死す!

 

皆のあらばしりは傑作だと思ったが、それ以外はイマイチ。この著者は何でもないことを作品にする。最近の傾向で、主人公が特殊環境にあるものを小説にする嫌いがあるが、この著者は真っ向勝負である。それはいいのであるが……

 

では本作について。

 

高校生の修学旅行を描く。班行動だからか、班の全員を書き分けようとする。小説はご存知の通りいっぺんに3人以上の人間を扱うのが不得意である。三人でもかき分けるのが大変なのに、本作は七人いっぺんに登場させて書き分けている。もちろん、丁寧に読めば書き分けられていることがわかるのであるが、そのために読者は多大なる労力を要求される。果たして、そんな労力に見合うだけの効果があるのかといえば疑問符である。

 

内容は主人公が東京への修学旅行の時間を利用して、家出したおじさんに会いに行くというもの。

 

もちろん、修学旅行の行程に「おじさんに会いに行く」などとは書けないので、偽の行程表を作る。もともと、主人公とその他の生徒は仲がよくないので、最初は勝手な行動をするな、と怒られる。しかし、主人公は人の話など聞かないのである。結局、他の男子も主人公と一緒におじさんに会いに行くという展開。

 

高校生、思春期の心の機微を描いた作品。七人の班は途中から四人に分かれて、おじさんに会いに行く。四人くらいなら読み分けもどうにかできるが、ちゃんと読むのはやはり大変である。

 

元々ギクシャクしている四人の関係であるが、班行動を抜け出し、学校に偽の工程表を提出するという冒険的な行為のために友情が芽生える。警官に職質された時、主人公は警官の態度が気に入らないと木の枝を警官に向けて投げつける。それを仲間が遮り、ことなきを得る。ドン引きな行為であるが、4人の中ではそれで盛り上がったりする。主人公はおじさんにあってどうするのかと言えば、別にどうもしないのである。ただ会うだけである。

 

この作者は文章が上手い。描写が上手い。全く物語性のない陳腐な話をしっかりと読めるものに仕上げてしまっている。

 

 

芥川賞が作品ではなく著者へ与えられる賞だとしても、この作品で受賞してしまっては厳しいのではなかろうか。前回の候補作だった皆のあらばしりが傑作だっただけに残念である