今回の候補作は良質な物が多かった。久しぶりに楽しんで読めた芥川賞レースだった。
ただ、「推し、燃ゆ」と「コンジュジ」が被っていたり、若い女性の主人公が多かったなど、作品の幅があまりなかったかも知れない。芥川賞候補は適当に選んでいるのではなく、様々な毛色のものを選んでいるはずなのに、被ってしまうというのはそもそも球数が少ないのかも知れない。
選考会は1月20日水曜であるが、その前に大胆予想をしようではないか。
「旅する練習」主人公と小6の女子が利根川沿いを我孫子から鹿島まで歩く、という話。その中で史跡や文学論などを展開するという、珍しい形の小説だった。ただ、あまりにインパクとが薄いし、なぜか最後に小6が轢かれるなど、あまり印象が芳しくない。
「小隊」アクション小説。架空戦記で謎のロシア軍と自衛隊が戦うという設定。ある一戦闘を細かく描写する。リアリティが素晴らしい。のめり込める作品だった。
「コンジュジ」普通に面白かった。妄想と現実の狭間が溶け始めて渾然一体となる。これを自然に書けるのは凄まじい筆力であると感じた。ただ、妄想と現実が入り乱れるところが、小説を読み慣れていないと、読んでいて意味不明になりかねない。一般受けしなさそうだという懸念はある。
「推し、燃ゆ」コンジュジと同じく、アイドルにのめり込み、その影響を実生活で受けるという話。ただ、こちらは現実の範疇を出ない。そのかわりに、SNSの世界が描かれている。ただ、コンジュジと比べてしまうと、突き抜けるものがない。
「母影」幼女の一人称が読んでいて違和感全開であった。ちょっとついて行けなかった。性感マッサージ店で働くシングルマザー。虐め、周囲の環境、などを扱おうという意欲は感じる。普通に三人称で書いた方がよかったのではないだろうか?
候補作5作品、それぞれの詳しい感想は以下のリンクをご覧頂きたい。
第164回 芥川賞候補作 母影 を読んだ - 文学・文具・文化 趣味に死す!
第164回 芥川賞候補作 推し、燃ゆ を読んだ - 文学・文具・文化 趣味に死す!
第164回 芥川賞候補作 コンジュジ を読んだ - 文学・文具・文化 趣味に死す!
小隊 砂川文次 を読んだ。第164回芥川賞候補作 - 文学・文具・文化 趣味に死す!
旅する練習 を読んだ 第164回芥川賞候補作 - 文学・文具・文化 趣味に死す!
それでは、結果発表!
受賞はずばり、コンジュジだと思う。コンジュジ、小隊のダブル受賞でも良いが、前回ダブル受賞を出したばかりなので今回は控えてくるのではないか。
小隊も素晴らしい作品であったが、文学性に劣るという批評を受けそうだ。
推し、燃ゆ、は良策であるけれども、コンジュジの影に隠れてしまう。
旅する練習は実験小説の域を出ない。
母影は作品としての統一感やテーマ性に欠ける。つまり、150枚も要らない。150枚使うならもっと描けるはず。
ということで、受賞確率順位は、
コンジュジ>小隊>推し、燃ゆ>旅する練習>母影
本物の発表は20日、明後日である。