群像5月号は売り切れでリンクが出てこなかった。わたしは群像で読んだ。
石田氏の前候補作の感想はこちら。
第166回芥川賞候補作 石田夏穂「我が友、スミス」を読んだ - 文学・文具・文化 趣味に死す!
今回は前作と違い明るさがない。笑える作品を期待していたのであるが、ちょっと期待と違った。明るさがないどころか、暗くおどろおどろしい。いろいろなテイストが書ける作者だ。
この作者は上手い。まるで破綻なく文章を紡いでいく。前回もボディービルというニッチなジャンルを描いたが、今回はさらにニッチで溶接工である。
この著者に限らず、最近の芥川賞候補作はニッチなジャンルを描く作品が多いような気がする。
主人公が社会生活を営む限り、なんらかのジャンルには属するのであるが、高校生かさもなければ特殊な環境である。
その点、168回の受賞作品は割と一般的な生活の物語が受賞した。
さてさて。本作は特殊も特殊、溶接工である。おそらく、読者の多くも溶接工のことを詳しくは知らないだろう。それを見越してか、著者はこれでもかと溶接の内容を詳解するわけである。
それが吉と出るか凶と出るか。わたしは正直辟易してしまった。小説の半分が溶接についての説明なのだ。専門用語もバリバリでてくる。それが、この小説にリアリティを与えているということはわかる。でも、読んでいて疲れてしまった。ちょっと説明臭い部分もある。
あらすじは、社交ベタな腕利き溶接工がスランプに陥ってミスを連発。自身を失う、という話。腕一本で威張ってきたぶん、下手になると惨めさが際立つ。
溶接工は他のドカタとは違うらしい。とても高度な職らしい。作品の中でも言及されているが、それでも人々は溶接工を「現場作業員」と見なす。それが主人公のプライドを傷つけるのだ。
悪いが、読者の多くも溶接工とその他の現場作業員の区別がつかない。そこで、プライドを振り回せば振り回すほど滑稽なわけである。
これで、第169回の作品はすべて読んだわけである。次回は大胆受賞予想をアップしたいと思う。