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アフターワクチン 第13回 その1

あなたたちは社会の一員であり、社会からあらゆる恩恵を受けているのだから、社会に対する責任を負わなければならない。より大きな社会的利益のために、自己の判断という個人的な権利を放棄しなければならない時が今やって来た。

合衆国大統領首席医療顧問 ステファニー・ガルシア

 

 

アフターワクチン 第13回 その1

 

 2031年

 

 僕は怖い夢を見たような気がして飛び起きた。いつものベッドの上だった。なにも変わらない、昨日までと同じ部屋。常夜灯がぽつりと天井で淡い光を放つ。隣では理恵が安らかな寝息を立てていた。僕は唐突に妻を抱きしめた。妻の呼吸以外の音はない。静まりかえった深夜。僕はベッドから抜け出して、一杯の水を飲んだ。
「どうしたの?」
 ベッドに戻ると、妻が身を起こしていた。
「いや、どうもしない。嫌な夢を見ただけ」
「どんな?」
 あまり話すことに気が進まなかったが、
「弟がさ、車に轢かれちゃうんだ」
「ごめん、そういう夢だと思わなかったから」
「理恵が謝ることじゃないよ」
 なにかがおかしい。弟は交通事故で死んだ?
「なぁ理恵。裕二は交通事故で死んだんだよな?」
「え、そうだよ」
 理恵が不安そうな表情を浮かべる。
「ごめん、そうだよな。なに言ってんだろう僕は」
 弟の裕二は交通事故で死んだ。僕たちの結婚式の当日、式場へ向かう途中の交差点でトラックに轢かれた。即死だった。
「だったらどうして、僕たちはワクチンを打ったんだろう?」
 自分でもなにを言っているのか分からない。
「どうしてって、普通に打ったよ」
「どこで?」
「区の病院で、予約して、一緒に打ったでしょ? 大丈夫?」
 妻の目には怯えのようなものが浮かんでいた。
「だよな。ごめん。そうだよ。理恵の言うとおり」
 ちゃんと思い出せば、僕の記憶も妻の言ったとおりだった。僕たちは、もう一度眠った。
 朝、妻を起こさないように起きる。僕は顔を洗って、歯を磨き、髭を剃り、髪をとかして、シャツを着て、スラックスをはく。少し肌寒いのでジャケットも羽織った。朝飯を食うべきか、喰わざるべきか、そんな悩みを抱えていると、妻が起きてきた。
「おはよう。あれ? 会社とか、呼び出された?」
「おはよう。いや、呼ばれてないよ」
 僕は先週退職した。引き継ぎなども全て終わっている。今日会社に行く予定はない。なぜ、僕はこんな格好をしているのだろうか。僕はトーストを焼いて、朝ご飯を食べた。
 理恵は朝食をとる暇もなくバタバタと忙しそうに身支度を調える。
 午前八時半を回った頃。
「じゃ、行ってくるね」
 理恵は出かけた。
 誰もいない部屋で、僕はなにもすることがない。モバイルに表示された僕の余命は、昨日から一日減って、残り十九日になっていた。
 背広を脱いでジーパンとパーカーに着替えた。

 

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さぁ、タイムリープの本領発揮だ! 行って帰らなければタイムリープではない! 歴史はどのように変わっているのか!?

アフターワクチン 第12回 その6

 

 翌日の午前中、彼女を御徒町の駅まで送る。随分涼しくなってきた。僕は上着を羽織り、ポケットに手を入れて歩く。
「わたしたちは付き合っている。でも、全然そんな気がしない。昨日と変わった気がしない。特別な関係になった気がしない。なぜだぁ」
 と由奈はしかめ面して僕を睨む。
 僕も全然変わった気がしない。昨日までは同士、今日からは恋人同士、好きだという気持ちが伝わっているのかも定かではない。
「いいじゃん。なんか自然で」
「きっと、これが所帯じみてる、ってやつかな。交際一日目から所帯じみてる」
 彼女にも、妻のような安心感を覚える。きっと、このまま何ごともなければ、僕は彼女と結婚するだろうな、と漠然と感じた。
「手とか繋げば、すこしは恋人の雰囲気が出るかもよ?」
 僕はポケットから手を出して、彼女の手を握った。彼女はその手を握り返す。
 そのまま、駅まで、数分間黙って歩いた。たったそれだけのことが、とても幸せだった。
「明日、デモ行くんだろ? 気をつけろ。また暴動みたいなこと、起こるかも知れないから。すぐ逃げろよ」
「心配してくれるんだ?」
「当たり前だろ」
「結婚式、お兄さんのこと、たくさん祝ってあげてね。じゃ」
 彼女が改札に消え、見えなくなると、急に空しさが襲ってきた。ああ、もっと一緒にいたかったんだな、とはっきりと分かる。明後日会えることは分かっているのに、今すぐに会いたい。
 そんな気持ちを抱えつつ、クリーニングに出した礼服を受け取って部屋に戻った。机の上には開封されたアレの箱。消費期限は過去の日付を示している。僕は未来から来た。過去、今、未来、今まで疑うことのなかった不可逆的な直線が歪む。
 翌日、十月十日、この時代の僕と理恵の結婚式だ。僕は礼服に白いネクタイを締める。僕が僕の結婚式を祝うというのは、なんとも妙な気持ちだった。素直に祝えるだろうか。違和感を与えてしまわないだろうか。そんなことを考えていたら、乗ろうとしていた電車を一本逃してしまった。
 乗りあわせが悪く、式場の最寄りの駅に着いたときは十五分も遅れてしまっていた。駅から式場までは歩いて五分くらい。僕は早足で式場へ向かった。渡ろうとしていた交差点の信号が点滅を始めた。
 そこそこ大きな交差点だったから、一度信号が変わってしまったらしばらく待たされることになりそう。僕は走って点滅する交差点に入り、半ば渡ったときに赤に変わった。僕も急いでいたが、そのトラックも急いでいたのかも知れない。エンジンを呻らせて強引に右折してきた大型トラックに僕は押しつぶされた。

 

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久々にダーツとかしたくなった。ダーツバーに行っている暇がないし、今まで行っていたダーツバーはコロナで潰れたとも聞いた。うーん。アフターワクチンにダーツバーでも登場させるか。そういう個人的な欲望が小説世界に介入するのはよくないな。

アフターワクチン 第12回 その5

 

 風呂上がりの彼女。もともと化粧気がなかったが、完全に化粧を落とすと、まるで学生みたいだった。
「こら。じろじろ見るの禁止」
 僕もシャワーを浴びる。彼女が入った後の浴室は蒸気が充満している。だれかの後に浴室に入るのは久しぶりだった。妻との暮らしを思い出してしまった。
 風呂から出ると、由奈は濡れた髪にバスタオルを巻いて、ベッドに座っていた。その姿が、どことなく妻と重なった。
 気軽に泊まっていけば、とは言ったものの、僕はソファーで寝る、などと格好いい真似は出来ない。この部屋にソファーなどない。ワンルームだ。ベッド以外に人が寝られるスペースは、流しの横か、ベッドとデスクの間しかない。どちらも板張りである。
 大体乾いたかな、と由奈は頭のバスタオルを取る。
「なにか、枕、ないかな?」
 コンドームはあるくせに、枕はひとつしかない。僕はクローゼットのタオルをまとめて渡した。
 由奈は器用にそれをまとめて、頭の下に敷いた。
「寝ようよ。電気消して」
 由奈はベッドの端の方へ寄る。それは、僕がとなりで寝ていいと言うことなのだろうか。冷静に考えれば、この部屋で他に寝られる場所はない。
 僕は電気を消して、由奈の横に寝た。狭いベッドだった。肩が少し触れてしまう。彼女の呼吸も伝わってくるし、温もりも、鼓動さえも伝わってくる近さだ。
 急に、衝動的に、隣にいる彼女を抱きしめたくなった。僕は彼女に恋をしていたのだから、それは当然のことかもしれない。
 カーテンの隙間から入るかすかな光に、彼女のシルエットが浮かぶ。
 由奈は不意に寝返りを打ってこっちを向いた。暗さに慣れてきたせいか、彼女の表情が見えるようになった。
「それでも、わたしたちは付き合ってない」
 残念そうに、寂しそうに、確認するかのように、由奈は呟いた。
 僕は頭を少し動かして、由奈にキスをした。
「そんなことない。おれたちは付き合ってる」
「ほんと? でも、裕二、わたしのことあんまり好きじゃなかった」
「前の裕二がどう思ってたか知らないけど、今の裕二は君のことが好きなんだ」
 僕は彼女を腕の中に引き寄せた。人を抱きしめるということ。抱きしめることが出来る人がいるということ。心が満たされる。
 十年後の世界は、ワクチンによって人が次々死んでいく。僕も抱きしめる妻を失った。今ならまだ、未来を変えることが出来る。日本ではまだワクチンパスポートも、ワクチン接種義務も、まだ始まっていない。しかし、アメリカでは労働に接種義務が、イスラエル、イタリア、フランスではグリーンパスが、オーストラリアではワクチンの事実上の義務化が、今この瞬間行われている。これらの接種義務はさらに強力になり、年齢も五歳にまで引き下げられる。そして、年二回の接種義務が地球規模で行われ、人類淘汰が実現してしまう。いまならまだ防ぐことが出来る。それをするために、僕はこの時代の弟の体に移った。
 絶対に、護る。彼女の体をもう一度抱きしめた。髪はまだ少し湿っていた。

 

 

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ツイッターの方ではイキって二話分投稿する!とか書いたが、書けなさそうな感じだぁ。

 

言い訳している暇あったら頭と手を動かすべし……!