文学・文具・文化 趣味に死す!

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第166回芥川賞候補作 を全て読んだ。受賞予想。

今回の芥川賞は三つどもえだ。それも、かなり高いレベルでの三つどもえ。今までにないくらい楽しませてもらった。

 

 

では、さっそく、受賞予想!

 

その前に、過去の戦績。第164回は受賞順位を以下のように付けて見事に外した。

コンジュジ>小隊>推し、燃ゆ>旅する練習>母影

 

第165回は

 

貝に続く場所にて>水たまりで息をする>彼岸花が咲く島>氷柱の声>オーバーヒート

 

貝に続く場所にては当てたが、彼岸花は外した。そもそも、わたしは受賞作なし、と予想を立てた。

 

それでは、お待たせしました。第166回の予想を発表しよう。

 

schoolgairl>我が友、スミス>皆のあらばしりブラックボックス>オン・ザ・プラネット

 

 

schoolgirlは久しぶりに文学作品を読んだと感じた。言葉が一つ一つ吟味されていて、さらに、読者にどう伝わるかも計算されている。さらに、読者がどんな感情を抱くかまで計算され尽くされている。設定が近未来であることが少し引っかかるが、同時代性をさらに先取りしたとも言える。

 

我が友、スミスもダブル受賞の可能性は充分有る。かなりレベルの高いエンターテイメント作品だ。ぶっちゃけ、エンタメに全振りしてもいいかも知れない。ちょっと純文とは毛色が違う。だが、面白い。

 

皆のあらばしり、も面白いのであるが、ちょっと歴史解説の域を出ていない。わたしは最高にこの作品、好きである。どのくらい好きかというと、琴平神社、登ってしまった。たしかに、道が険しくて大変、と小説の中に書かれていたが、マジで大変だった。あんなの参道じゃない。けもの道である。今年の初詣は琴平神社だった。

 

上記の三作品はどれが受賞してもおかしくないし、どれが受賞しても芥川賞の名は上がると思う。毎回こうであると本当に良いのであるが。

 

 

各作品、それほど長い講評を書いたわけではないので、雑談部分を除いてもう一度転載する。

 

 

この作家は確実に成長していると感じる。乗代氏の作品は過去二回読んだ。ぶっちゃけ、どちらもつまらなかった。

 

最高の任務 乗代雄介 を読んだ 芥川賞候補作品 感想 レビュー - 文学・文具・文化 趣味に死す!

旅する練習 を読んだ 第164回芥川賞候補作 - 文学・文具・文化 趣味に死す!

 

が、今回の作品は人に勧めることが出来る面白さを備えている。

ただ、歴史好きじゃないと、投げ出してしまう。歴史好きなら後半はページを繰る手が止まらないくらい面白い。前半はかったるい。大阪弁のおじさんが鼻につく。高校生が年上に対し失礼。荒唐無稽etcetc。

内容は、江戸時代の一冊の書物を巡る話。栃木市のある旧家がその書物の作者と関わりがあり、栃木市の地誌を元に旧家の謎を探っていくという、サスペンス、ミステリーものである。歴史ミステリーか。

歴史研究という直球なので、暗さはない。高校生とおじさんの会話で進んでいくが、やっていることは「逆接の日本史」的なノリだ。最後にはどんでん返し? とまでは行かないものの、思わず笑ってしまうような仕掛けまで施されている。(この終わり方には賛否両論があると思う。人によっては短絡的で今までの積み重ねをぶちこわしていると感じるかも知れない)

 

著者の作品は過去二作読んでいる。

 

戦場のレビヤタン 第160回 芥川賞候補作品 感想 レビュー - 文学・文具・文化 趣味に死す!

小隊 砂川文次 を読んだ。第164回芥川賞候補作 - 文学・文具・文化 趣味に死す!

 

レビヤタンは普通につまらなかった。

小隊はすごく好きな小説。面白かった。

今回のブラックボックスはつまらなかった。読んでて不快だった。読みたくなかった。が、読むのをやめられなかった。

宮台真司が言うように芸術の定義が「心に傷をつけるもの」であるならば、この小説は成功しているとも言える。

現代人の生きづらさを表現している。主人公はうだつの上がらない青年で、付き合っていた女が孕み、将来のことを考えるも上手くいかず、暴力事件を起こして刑務所送り、というあらすじ。

刑務所がゴールかと思いきや、出所後の心配が頭をもたげ、結局ゴールではなかったというくだりは好きだ。

思想や問題意識は非常に共感出来るが、小説として昇華出来ているかと問われると首を捻る。

おそらく、書いているうちにこういう作品になってしまったのではないだろうか。頭から終わりまでプロットを建てて書いた作品には思えない。まさに、この小説の主人公のように、行き当たりばったりのような気がする。

メッセンジャーのバイトの話と、刑務所の中の話は詳細に書かれている。もともと、二つの作品を書こうと思っていたものを、無理くり一つにまとめた感じすらする。

主人公の性格も前半と後半でなんとなく違う。自転車に乗っているときは理知的に頭を働かせている感じなのだが、捕まる前後あたりから直情的な言動が多くなる。自分で自分を分析出来なくなっている。客観的に見られなくなってしまっている。

別の表現を使うと、三人称小説なのだが、前半は極めて一人称に近い表現で書かれている。それだけ、小説と主人公の距離が近かったのだが、後半に行くに連れて、小説と主人公の距離が離れる。小説が主人公を見放しているように感じられる。

 

 

 

苦行のような作品に出会った。

移動系小説で面白かったものはほとんどないが、これも例に漏れずつらかった。

大学生の四人が自動車で横浜から鳥取を目指すというもの。鳥取砂丘で世界の終わりの映画を撮影する。

映画のシーンと移動のシーンが1:4くらいの割合で交互に出てくる。

移動中なにをしているかというと、永遠とダベっている。それも、時間の話や、存在の話や世界の話。いわゆる哲学的なことを話しているのであるが、そこは小説、すべて有耶無耶で終わる。ひと言で言うと訳が分からぬ。

主人公は大阪に寄って高校時代の友人、島口と会うのであるが、この島口は実は作者。どうも、映画の解説も作者自身がしている。そして、「この話は本当のことである」となんども断るのだ。

 

 

 

 

スミスとは一体何者か、と思うが、答えは筋トレマシーン。

筋トレ小説である。

ただ、大会までの道のりを描いているので、ある意味青春小説かもしれない。

これも哲学的な思考がいろいろ出てくるのであるが、全て筋肉と結びつけて思考するところがいい。

また、文章が秀逸なのだ。ここまで読ませる文章の小説には久しぶりに出会った。言葉のセンス、ユーモア―、比喩、実に面白い。ゲラゲラ笑ってしまう面白さだ。

主人公の成長もしっかりと描かれている。筋肉と共に成長していく主人公。筋トレの世界、ボディビルの世界が一気に身近になる。ボディビルの細かい規定、アイテム、作法などが余すところなく?描かれている。

ただ、ラストがよくわからなかった。ネタバレになるので書かないが、なぜ主人公はそんな選択をしたのか。

 

 

 

 

ものすごい勢いの作品。怒濤のように言葉が押し寄せてくる。

掛け値無しで面白い作品だった。

あらすじは、一人娘を育てる母親の話。娘はグレタに傾倒する意識高い系の中学生。母親は不倫したり、今ひとつ現実に充足感を見いだせない30代の女性。娘は母親を馬鹿にしきっているが、母親もどこか娘を馬鹿にしている。そんな不思議な親子関係。娘も変わっているが、母親も相当変わっているのだ。

母親の一人称と、娘のyoutubeチャンネルが交互に現れる。母親は娘のチャンネルを観て娘の本心を知る。なかなか上手い構成である。

一見ただの思考ダダ漏れ小説のような感じなのであるが、娘が母親の本棚を発見して、自分の母親ではない時代の母親を発見したりと、物語的奥行きもある。