レースシューズをスリンポンのように履くはダンディに非ず。 必ずや紐を解き、足を入れ、しかるのちに紐を結ぶべし。
上記のごときはダンディズムのイロハのイである。
しかし、このイロハのイがこと日本においては中々難問である。
出かけようとして靴紐を結ぶ。「あ、財布忘れた」 と靴紐をほどき財布をしまい、また靴紐を結ぶ。「あ、 バッテリーやばいな。モババ持っていくか」靴紐をほどき、 モババを持って靴紐を結ぶ。「二階のストーブ消したっけな?」 と靴紐をほどき……。
時間がいくらあっても足りぬ。 こと日本においては靴紐は易々と解いたり結んだりしていいもので はない。私は上記のような場合、 靴のヘリだけ使って家の中に入ってしまう。 または片足だけ脱いでケンケンで家の中に上がる。 どちらもダンディズムとは程遠い。
そう考えると、 日本人が履いていた草履や下駄というのは非常に理にかなっている 。日本には「草鞋を脱ぐ」という諺がある。 旅を終えて目的地に到着して草鞋の紐を解くことである。 私は草鞋を結んだことがないので、 レースシューズの紐を結ぶのとどのくらい手間が違うかわからない が、草鞋は年中解いたり結んだりするものではないだろう。
クロックスは奇しくもアメリカの企業であるが、 クロックスブランドの売上高上位5カ国には、中国、 インド、日本、韓国とアジアの4カ国が入っている。 私もクロックスを履く機会は多い。夜に買い物に行く時など、 クロックスは楽でいいのである。 売上の多くがアジアであるように、 クロックスは靴の脱ぎ履きを繰り返すアジアでこそ需要がある。