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第169回芥川賞ノミネート作品 児玉雨子「##NAME##(ネーム)」(文藝夏季号)を読んだ

 

 

 

2006年から2008年の物語と、2017年の物語が同一の主人公で描かれている。主人公はいわゆるジュニアアイドルであり、2006年に於いて、現在では児童ポルノに該当する活動をしている。

 

しかし、当時は児童ポルノ自体の概念がなく、当然本人にも、両親にもその自覚はなく売れるために活動している。また、周囲も事務所も芸能活動の一環として取り組んでいる。

 

2017年は児童ポルノに関する法律が施行されて、主人公が過去に活動した写真などが児童ポルノに該当することになる。そのために家庭教師を馘になったりと苦労する。

 

この作品がいつ書かれたのかはわからないが、明らかに、昨今巷を騒がせているジャニーズ問題を下敷きにしている。主人公を自覚がなかった頃の過去に設定して、現在と対比するという手法は面白いと思った。

 

また過去を、過去形、回想、という形で記述するのではなく、過去は過去で独立した現在形で物語られているのがいい。

 

ただ、ジャニーズ問題、現在の社会問題に切り込みたかったためか、2017年の物語が説明くさくなっているのが残念だった。周りのキャラや、出来事が、社会問題を語るために立ち現れた感じが否めないのである。

 

あと、オリジナリティの比喩を捻り出そうと頑張ってるのはわかるが、上滑りしている感じだ。文章もイマイチ。

 

さらに欲を言えば、過去では本人含め誰も児童ポルノとは思わずに行われていた慣行が、いつから児童ポルノに該当して糾弾の的になったのか、その空気の変化を書いて欲しかった。

 

しかし、それをやると絶対悪でなくてはならない児童ポルノ自体を客観視して、相対化してある意味擁護する形になる。それは、絶対悪としなければならないジャニーズ問題に対する客観視ということになるので、昨今の空気では難しい。

 

しかし、絶対悪とは所詮社会が作り上げた幻に過ぎないのだから、文学はあえてそこに切り込んでいく必要があると思う。ナチスを絶対悪にして滅んでしまったドイツ哲学の轍を踏んではならないと思う。