文学・文具・文化 趣味に死す!

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第166回芥川賞候補作 砂川文次「ブラックボックス」を読んだ

わたしは群像の方で読んだ。

 

 

著者の作品は過去二作読んでいる。

 

戦場のレビヤタン 第160回 芥川賞候補作品 感想 レビュー - 文学・文具・文化 趣味に死す!

 

小隊 砂川文次 を読んだ。第164回芥川賞候補作 - 文学・文具・文化 趣味に死す!

 

レビヤタンは普通につまらなかった。

 

小隊はすごく好きな小説。面白かった。

 

今回のブラックボックスはつまらなかった。読んでて不快だった。読みたくなかった。が、読むのをやめられなかった。

 

宮台真司が言うように芸術の定義が「心に傷をつけるもの」であるならば、この小説は成功しているとも言える。

 

現代人の生きづらさを表現している。主人公はうだつの上がらない青年で、付き合っていた女が孕み、将来のことを考えるも上手くいかず、暴力事件を起こして刑務所送り、というあらすじ。

 

刑務所がゴールかと思いきや、出所後の心配が頭をもたげ、結局ゴールではなかったというくだりは好きだ。

 

思想や問題意識は非常に共感出来るが、小説として昇華出来ているかと問われると首を捻る。

 

おそらく、書いているうちにこういう作品になってしまったのではないだろうか。頭から終わりまでプロットを建てて書いた作品には思えない。まさに、この小説の主人公のように、行き当たりばったりのような気がする。

 

メッセンジャーのバイトの話と、刑務所の中の話は詳細に書かれている。もともと、二つの作品を書こうと思っていたものを、無理くり一つにまとめた感じすらする。

 

主人公の性格も前半と後半でなんとなく違う。自転車に乗っているときは理知的に頭を働かせている感じなのだが、捕まる前後あたりから直情的な言動が多くなる。自分で自分を分析出来なくなっている。客観的に見られなくなってしまっている。

 

別の表現を使うと、三人称小説なのだが、前半は極めて一人称に近い表現で書かれている。それだけ、小説と主人公の距離が近かったのだが、後半に行くに連れて、小説と主人公の距離が離れる。小説が主人公を見放しているように感じられる。

 

個人的には現代社会の闇に切り込んでいる作品なので受賞して欲しいが、読者を選ぶ作品であることは間違いない。