安堂氏は第168回でもノミネートされている。その作品の感想はこちら↓
yoshinori-hoshi.hatenadiary.jp
今回もゲイの話である。この著者自身の話なのか、ゲイと言っても黒人系ゲイである。
文体も、ネタも、前回の「ジャクソンひとり」と似通っている。私としては、前回のジャクソンひとりの方が印象的であり、かつ作品としてのクオリティが高いように思われる。
ゲイネタで勝負するのなら、ジャクソンひとりを超える何かを作品の中に盛り込まなければならない。
以下ネタバレ
さて、本作であるが、主人公はファイトクラブというゲイが集ってセックスをする店に通っている。ファイトクラブは個室がたくさんあり、ロビーで会った人を誘って個室に入る仕組み。入場料は千円と安い。この安さはなんかリアルだった。
主人公はファイトクラブで「いぶき」というゲイと仲良くなる。だが、いぶきは主人公とセックスをした後、他の誰かと個室に入り、そこで刺されてしまう。いぶきは死んだとも、意識が戻ったとも、本作の中では語られない。
いぶき傷害事件がバックボーンとなって小説は進むのであるが、物語と言うよりも、主人公の独白に近い哲学的考察のようなものが続く。
ミステリー要素があるので、読ませる力はあるのであるが、たとえば職場の内容がまるで触れられていなかったり、デテールが弱い気がする。また、ミステリー要素が入ってしまったので、小説の重みがそちらへ傾き、文学的なメッセージが届かなくなってしまっているのではないだろうか。
極めてミステリアスな形でいぶきの傷害事件を設置したのは良くなかったのかも知れない。
警察の動きも鈍いし、その後の彼氏との行動なども、どこか夢の中の浮遊感、無秩序感が否めないのである。
ラストシーンは前作同様脈絡がなく、どうしてそういう終わり方になるのかよくわからない。
受賞予想であるが、おそらくないだろう。
安堂氏は映画の脚本を書きたい、というようなことをインタビューで言っていた。小説も映像的というか、カット割りがはっきりしている。こういう文学は面白いと思うし、独特なものだと思う。
黒人系ゲイ作品は、この二作品でひとまず置いておき、全く別の作品を書いても面白いのではないだろうか。