「なんで、おまえが裕二のところにいたんだよ?」
高田はエンジンを切った車の運転席に凭れるように座りながら、ゆっくりと口を開いた。
「信じられないかも知れないが、2021年のあの時、裕二の体の中身はおまえだったんだよ」
僕の結婚式の日に、裕二は高田に、未来から来た人間しか知ることのない合い言葉を告げたという。
「今日陽が西から昇った」
それが合い言葉だった。高田が呟いた言葉は意味不明な言葉なのに、頭の奥へと響いてくる。
僕たちは車を降りて寺の門をくぐる。秋の風が頬を引き締める。喪服姿の集団が、そちこちに屯して法要の順番を待っていた。
本堂の前を通るとき住職と目が合った。僕は会釈し、
「すごい、混んでますね」
「ああ、内田さん。ご覧の通りの忙しさです。坊――」
住職が言おうとする言葉の前に、
「坊主まるで儲からず」
と僕は口を注いでしまった。
「おっと、言われてしまいました」
柔和な瞳で、和尚は喪服の集団の方へ去った。
僕はこの光景を知っていた。それも、一度や二度ではないような気がする。
裕二の墓がある丘を登っていると、上から一人の女性が降りてきた。二十代後半、三十代くらいだろうか、小柄な女性だった。どこか見覚えがある。
高田が僕を小突き、
「おい、あれ、裕二の彼女じゃないか」
あの頃よりも、大人びていたが、言われてみれば間違いなく彼女だった。裕二の死後、事件性を警察に認識してもらうため、彼女とはいろいろと動いた。
彼女も僕たちに気付いたようで、すれ違い様に立ち止まる。僕たちは二人で雁首並べているので分かりやすかったかも知れない。
「お久しぶりです」
会釈をして彼女は言った。
「お久しぶりです。弟の墓参りに来てくれたんですか?」
彼女は恥ずかしそうに頷いて、「はい」と答えた。
「ありがとうございます。弟も喜びますよ」
彼女は首を振る。
「でも、わたし初めてです。裕二の事件、犯人を捕まえるまでは来ないつもりでいました。犯人見つけて、裕二に報告しようって思ってたのに……」
「まだ僕は諦めてませんよ」
彼女は急に涙を流した。ぽつりぽつりと。
「わたしはもうだめ。タイムリミット」
彼女はモバイルを示す。寿命はあと二日だけだった。反ワクチンの彼女は最後まで抵抗したが、結局ワクチン接種義務違反で逮捕、強制接種となってしまった。
僕は近くのベンチに彼女を座らせる。
「犯人を捕まえるどころか、手がかり一つ見つけられませんでした」
悔しさを滲ませていた。
「仕方ないです。僕もいろいろ調べましたけど、全て燃えてしまったし」
彼女は首を振る。
「違うんです。わたしがもっとちゃんと、彼のことを信じていれば、彼は助かったかも知れない」
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昨日のデモだが、やっぱりマスコミは完全黙殺。東京だけでなく、世界同時デモを黙殺した。ネットニュースにすら出てこない。大きく取り上げられることはないだろうと思ったが、ここまで完全に黙殺されるとも思っていなかった。
やはり体制にとって、マスコミなどコロナとワクチンを煽った犯罪者にとって、あのデモは恐怖なのだ。怖いものは見ないように、見えないようにする。連中も余裕が無くなっている。勝利は目前だ!
山本七平は編集の技術で現実は如何様にも変えることが可能だと行った。編集というのはある出来事をどのように語るかである。
昨日新宿にいた人たちはあのデモを目撃したのだから、それがマスコミに一切流れないという異様さを感じるべきである。
証拠動画は今のところyoutubeにポアされずに残っている。