文学・文具・文化 趣味に死す!

小説家 星香典(ほしよしのり)のブログ。小説、映画、ファッション(メンズフォーマル)、政治、人間関係、食い物、酒、文具、ただの趣味をひたすら毎日更新し続けるだけのブログ。 ツイッター https://twitter.com/yoshinori_hoshi  youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UC0YrQb9OiXM_MblnSYqRHUw

アフターワクチン 第15回 その2

 

 僕と高田は喪服の集団に紛れて門をくぐる。僕たちは法要をするわけでもないので普段着であった。
 たまたま本堂から降りてきた住職と目が合った。僕は会釈し、
「すごい、混んでますね」
「ああ、内田さん。ご覧の通りの忙しさです。坊主、まるで儲からず」
 住職は戯けて言う。
「墓参りに来ました」
「確か昨日が命日でしたな。弟さんも喜ぶでしょう。わたしもあと半年の命です」
 住職は呼ぶ声に引き寄せられるように、軽く会釈をすると、足早に去った。
 僕はデジャブに襲われた。あまりにも、その偽りの記憶がなにかを語りかけてきて、僕はしばらく動くことさえ出来なかった。
「おい、どうした? おまえ、今日なんか変だぞ」
 高田の声にまたデジャブを感じた。デジャブのデジャブなんてあり得るのだろうか?
「ああ、大丈夫。なんていうんだっけ、こういうの、ええと、デジャブ?」
 高田はなにも言わなかった。ただ歩いて、裕二の墓がある方へと向かった。
 内田家の墓はいつもと同じようにそこにあった。秋の色のなかに、灰色の石は静かに鎮座していた。僕はなにかを確かめるように墓碑を読んだ。墓碑の前で跪いた。理恵の名前が刻まれていた。
「理恵は、死んだのか?」
 僕はなにを言ってるんだろう。半年前に理恵はワクチンの副反応で死んだ。僕は彼女を看取った。そのことは記憶にはっきりとあるのに、その記憶が作り物のように感じ、記憶を疑ってしまう。
「おまえ、戻ってきたんだろ?」
 呆然としている僕に向かって、高田が不思議な言葉を投げかけた。高田の言葉がなにを意味しているのか分からなかったが、なにか重大な意味があるようにその言葉は響いて、無視出来ない。
「戻ってきたって、どこから?」
「2021年から」
 2021年から戻った。笑い飛ばしたいところだが、それが出来ない。出来ないし、その答えを脳の奥の方が受け入れている嫌いすらある。
「なんなんだよ。一体。わけ分かんないよ」
 高田は落ち着いた口調で言う。
「おれは2021年に、裕二の体に入っていたおまえに会ったんだ」
「裕二の体に入った僕?」
「ああ。おまえの結婚式の日に、裕二はおれしか知らない合い言葉を言って、『自分は裕二じゃない、達也だ』とはっきり言った」
「ふざけるなよ、そんな戯れ言、誰が信じるかよ」
「今日陽が西から昇った」
 高田が呟いた言葉は意味不明な言葉なのに、頭の奥へと響いてくる。
 裕二は結婚式でその言葉を言ったという。高田は意識を転送する研究を行っていた。それは、未来から過去へ転送される可能性も秘めていた。だから、未来から過去へ転送されたことが分かるように、今日陽が西から昇った。という合い言葉を作った。この言葉は紙に書くこともなく、高田の頭の中にだけ存在する言葉だった。その言葉を2021年の裕二が高田に告げた。
 説明を終え、
「まだ信じられないか?」
 僕は頭を抱えて、その場へとうずくまる。

 

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ツイッターの方で文庫本ページメーカーを使っての更新はなんと201ページ!

原稿用紙で200枚弱で終わるかと思いきや終わらなかった。

さて、あとどのくらい続くか。今年中には書ききれると思う。