文学・文具・文化 趣味に死す!

小説家 星香典(ほしよしのり)のブログ。小説、映画、ファッション(メンズフォーマル)、政治、人間関係、食い物、酒、文具、ただの趣味をひたすら毎日更新し続けるだけのブログ。 ツイッター https://twitter.com/yoshinori_hoshi  youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UC0YrQb9OiXM_MblnSYqRHUw

アフターワクチン 第16回 その1 その2

 

 2021年

 体がふわりと傾いて、僕は冷たい床の上に倒れていた。
 ここは……。明るい店内。商品が陳列してある。ガルシア達に殺される直前に立ち寄ったドラッグストア。
 由奈が駆け寄ってきた。
「裕二っ、大丈夫!?」
 目を見開いて僕をのぞき込んでいる。
 脳と体がリンクして、手足が動くようになる。僕はゆっくり立ち上がる。
「大丈夫。ちょっと躓いた」
「そういう倒れ方じゃなかったよ」
 一気に頭の中に記憶が蘇ってくる。由奈は刺されて死ぬ。
「っていうか、由奈、ちょっと呑気にしてる場合じゃない。逃げろ、今すぐ」
「どうしたの? なに言ってるか分からない」
 僕は買おうとして籠に入れていたコンドームなどを近くの棚に戻して、とりあえず、店の外に由奈を連れ出した。昼間と違って夜はひんやりとしている。僕がいた2031年の十一月を思い出させる。
 由奈にどこから伝えたらいいのだろうか。ゆっくり考えている余裕もない。
「いま僕の部屋にはガルシアがいる。あのステファニー・ガルシアだ。そして、僕と君は殺される。殺された未来から、僕は今戻ってきた」
 由奈は一瞬嫌そうな顔をしてから、
「なにそれ。部屋に別の女でも隠してる?」
「ばか、そんな暇はない」
「昨日もライン返してくれなかったし」
「なら、ここまで連れてくるわけないだろ。嘘だと思うなら、警察呼べ。違う、嘘だと思わなくても、今すぐ警察を呼べ。すぐに、君はここを離れろ」
 僕の本気が伝わったのか、由奈は頷いた。僕に付いてくることはなかった。
 逃げたところで、あいつらは追っかけてくる。なら、いまここで、ガルシアの陰謀を終わらせてやる。
 この携帯はおそらく盗聴されている。僕が警察に電話をすれば、あいつらはなにか他の手を考えてくる。僕は自分のアパートの階段を上りながら警察に電話をかける。警察の電話は録音されている。ガルシアの声を、警察に聞かすことが出来れば、僕の死は無駄にはならないはず。
 警察につながったことを確認して、僕は部屋の扉を開ける。男が隠れていて、僕に一撃を食らわせてくることは分かっていた。僕はその攻撃を鞄で受け止める。
「誰だおまえら、やめろ、なにしやがる!」
 僕は叫んで、わざと壁にぶつかり、物音を立てる。
 だが、もう一人の男にすぐに押さえつけられて、前回と同じように部屋の奥へと連れて行かれる。
 電気がつくとガルシアがいる。
 ガルシアはあごを使って、無言で男に指図をする。男は心得たもので、僕のポケットから携帯を取りだして、通話ボタンを切った。僕の叫びと物音は警察の記録に残ったはずだ。やっぱり、こいつらは僕の携帯を盗聴していた。
 前回と違うところは、ガルシアが怪訝な表情を浮かべているところだった。そうだ。ガルシアを目にした僕は驚かなければならないのだ。僕はわざと驚いた振りをして見せたが、ガルシアには通用しなかったようだ。
「あなたにとって、これは何回目の出来事ですか?」
 僕の目の奥をのぞき込んで、初老の女は言った。
「初めてだよ」
「なぜ警察に電話をかけましたか?」
「臭かったからさ。階段から匂ってた」
「なんど蘇ったところで、結果は変わりませんよ。あなたが余計なことをしなければ、わたしたちは十分にディスカッションが出来ました」
 殺しておいていけしゃあしゃあとよく出任せを言ったもんだ。ワクチンが希望だと世界中の人間を騙しただけのことはある。
 その後は前と同じだった。僕はガソリンをかけられて、部屋ごと焼かれてしまった。

 

アフターワクチン 第16回 その2

2031年

 目が覚めた。車は高速道路を快調に走っていた。道路の継ぎ目の振動が、一定の間隔でシートから伝わってくる。
「目、覚めたか。随分ぐっすり眠ってたぜ」
 高田は微笑みながら横目で僕を見る。
 僕は車の助手席に乗っていた。単調な景色のせいか、いつの間にか眠ってしまって、嫌な夢を見た。
「妙な夢を見た。どんな夢だったかは覚えてないんだけど、その夢は前にも見たことがあるような夢でさ。なんていうの、夢のデジャブ?」
「夢のデジャブっていうのは珍しいな」
「おまえ、脳の研究してたんだから、デジャブとか夢とかのカラクリ、詳しいだろ?」
「脳の研究って随分大雑把にくくってくれるな。どんな夢見たんだ?」
 高田は機嫌よさそうにハンドルを指で叩いてリズムを取っている。
「えーと……」
 さっきまで、あれほどはっきり感じていた夢のはずなのに、思い出すスピードよりも速く、ぽろぽろと跡形もなく記憶の中から崩れ去っていく。
「夢ってさ、見てるときは覚えてるんだけど、目が覚めると思い出せないんだよな。でも、なんか裕二が出て来たような気がする」
 車は大きな弧を描いてインターを降りた。一般道もがらがらだった。
「そりゃ、これから裕二の墓参りに行くから、どこか意識に残ってるんだろ」
 裕二の墓参り。裕二は死んだ。そう、僕と高田は裕二の墓参りに向かっている。僕は突然役を振られた役者のように、目の前の現実が作り物のように感じた。
「裕二はコロナで死んだ。いや、トラックに撥ねられた、いや、火事でに遇って、違う。裕二は……」
「なに言ってんだおまえ?」
 高田は運転しながら、ちらりちらりと怪訝な目を僕に向ける。
「裕二は殺された……」
「おい、本当に大丈夫か? ちゃんと思い出してみろ、裕二がどうして死んだか」
 高田の声はなかば怒気が含まれていた。
 僕は大きく息を吸って、ゆっくりと記憶をたどる。紛うことのない、確かな記憶を。僕は記憶を言葉にする。
「裕二は……、事件に巻き込まれた。直接の死因は焼死だったけれど、他殺の可能性が強かった。裕二は死ぬ直前に警察に通報していた。そのテープをなぜか警察は出したがらず、弁護士や議員の先生にも動いてもらってやっと出させた。テープは裕二の声と物音が入ってはいたが、裕二の声以外、人の声は聞こえなかった。何しろ、綺麗さっぱり燃えちゃってたから、争った形跡とかも見つけられず、警察の捜査はおざなりだった。特に、事件だって主張したのは高田、おまえだったよな」
 高田は何度も頷いた。
「自殺の動機も不明。裕二がガソリンを購入した経緯も不明。自殺だとしたらなぜ警察に通報した? それに、録音に残されていた物音。明らかに自殺じゃない。警察はなにかを隠している」
 僕もそれは思った。だが、警察は証拠がないの一点張りだった。
「あのとき、現場にいた彼女、あと、おまえも通報してくれたんだっけ?」
 高田の顔が怪訝そうに歪んだ。
「ちょっとまて。なんでおれが通報するんだ?」
「ん? 通報してくれたんじゃ……、ってそんなわけないよな」
 高田は無言になってしまった。
 寺の駐車場は車で埋まっていたが、ちょうどよく、目の前の車が一台出た。
 高田は車を止めた後も無言で、降りようとしない。
「おい、どうした?」
 高田はためらいがちに僕の方を向いて、
「ずっと黙ってたけど、裕二が死んだあの日、おれはあの現場のそばにいたんだ」
 それは、驚くべき告白のはずなのに、僕はなぜだか自然に受け止めていた。

 

 

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昨日せっかくジーパンをアップしたので、小説の方は遠慮した。ので、今日纏めて二話分アップ。

 

今日ある行事で国歌斉唱があったのだが、司会者が、「歌われることはお控え頂き御黙唱でお願いいたします」という。

 

学校の黙食も呆れたが、黙唱ってなんだよ! 黙読の仲間だろうか。もうこれからは挨拶も黙拶。返事も「はいっ!」じゃなくて黙ハイになるのだろうか。

 

おばかなコロナ対策は行き着くところを知らぬらしい。

 

あんなウイルスでこんな世界になっちゃった、とだれかがTWで嘆いていたが、やんぬるかなです。