文学・文具・文化 趣味に死す!

小説家 星香典(ほしよしのり)のブログ。小説、映画、ファッション(メンズフォーマル)、政治、人間関係、食い物、酒、文具、ただの趣味をひたすら毎日更新し続けるだけのブログ。 ツイッター https://twitter.com/yoshinori_hoshi  youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UC0YrQb9OiXM_MblnSYqRHUw

アフターワクチン 第13回 その4

 

 寺には午前中に行った。駅から寺まで、僕は理恵の手を握りながら歩いた。特に意味はないのだけれど、なぜか手を繋いで歩きたいと思った。理恵もいやがることなく、僕の手を握り返してくれる。爽やかな、秋の一日。
 ここのところ、日増しにワクチン副反応による死者は増えていて、寺の駐車場は満車。喪服を着た黒い集団があちらこちらにいた。僕たちもその一つだった。寺の中にはいろいろな植物が植えてある。墓に覆い被さるような紅葉が青い空に映えている。
 内田家之墓。祖父母、両親、そして裕二が眠っている。僕が墓を磨いている横で、理恵は買ってきた花を花立てに飾れるよう切りそろえていた。
 線香を立てて祈る。祖父、祖母、父、母、裕二、ついでに僕の冥福も。
「裕二、あと九日で、僕もそっちに行くから、ちょっと待ってて」
「そういうこと言わないの」
 理恵が肘鉄を食らわせてくる。その目は笑っていなかった。
「でも、なにも言わないで、突然あっちに行ったら、驚くかも知れない」
「達也は残される人の気持ちなんて分からないんだよ。そりゃ、わからないだろうけど」
 僕はなんとなくその気持ちが分かるような気がした。
 理恵は突然、手を合わせて、
「裕二君、わたしはあと一千二百九十五日でそっちに行くからね。よろしく」
 たしかに、聞いていてあまりいい気分はしない。でも、僕には理恵を死なせはしないという、根拠のない自信があった。
「理恵は死なないよ」
「そんなことないよ。わたしも死ぬ。見てよ。ここがこんなに賑わうなんて、これまであった?」
 見渡せば、至る所で墓参りが行われている。線香の煙も充満している。
 墓参りをすませ、寺の本堂の前を通り過ぎようとすると、たまたま本堂から降りてきた住職と目が合った。僕は会釈し、
「すごい、混んでますね」
「ああ、内田さん。ご覧の通りの忙しさです。坊主、まるで儲からず」
 住職は戯けて言う。
「墓参りに来ました」
「確か命日は先月でしたな。弟さんも喜ぶでしょう。わたしもあと半年の命です」
 住職を呼ぶ声に引き寄せられるように、軽く会釈をすると、足早に去った。
 またデジャブに襲われた。それも、結構強力なやつで、僕はいったいどういう顔をしていたのだろう。
「ねぇ達也、大丈夫?」
 理恵の声で現実に引き戻される。
「……ああ、大丈夫、なんでもない」
「最近、多いよね。なんか突然、その、フリーズする感じ」
「昔のPCみたいに言わないでよ」
「昔はモバイルもたまーにフリーズしてたよね」
 僕たちは帰りに、食料品店でちょっといい肉を買った。今晩高田が来るから、ステーキでも焼こうということになって、サーロインがいいか、フィレがいいかでちょっと揉めて、ワインはフランス産がいいか、いや、同じ値段を出すならチリ産の方が美味しいとか。そんな日常の彼女との対立がたまらなく愛おしかった。

 

 

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第一話修正しないと。

弟だけの墓ではなく、祖父も眠っている墓にする!