「はっ!」
目が覚めた。自分の声に驚く。
「おいおい、大丈夫か?」
高田は心配そうに横目で僕を見た。
僕は車の助手席に乗っていた。高速道路の単調な景色のせいか、いつの間にか眠ってしまって、嫌な夢を見た。
「大丈夫か? うなされてたぞ」
ハンドルを握る高田はもう一度言った。
「大丈夫、大丈夫。変な夢を見た。ごめん、運転してもらってるのに寝ちゃって」
「夢って、どんな夢だ?」
「えーと……」
さっきまで、あれほどはっきり感じていた夢のはずなのに、思い出すスピードよりも速く、ぽろぽろと跡形もなく記憶の中から崩れ去っていく。
「夢ってさ、見てるときは覚えてるんだけど、目が覚めると思い出せないんだよな。おまえ、脳科学やってるから、その辺のカラクリ詳しいんじゃないか?」
高田は鼻で笑う。車は大きな弧を描いてインターを降りた。一般道もがらがらだった。
「夢占い師には適わないな。どんな夢か少しも覚えてないのか?」
「なんか、裕二が出て来たような気がする」
「そりゃ、これから裕二の墓参りに行くから、どこか意識に残ってるんだろ」
裕二の墓参り。裕二は死んだ。そう、僕と高田は裕二の墓参りに向かっている。僕は突然役を振られた役者のように、目の前の現実が作り物のように感じた。
「裕二はコロナで死んだ。いや、トラックに撥ねられた、いや違う。裕二は……」
「なに言ってんだおまえ?」
高田は運転しながら、ちらりちらりと怪訝な目を僕に向ける。
「裕二は殺された……」
「おい、本当に大丈夫か? ちゃんと思い出してみろ、裕二がどうして死んだか」
高田の声はなかば怒気が含まれていた。
僕は大きく息を吸って、ゆっくりと記憶をたどる。紛うことのない、確かな記憶を。僕は記憶を言葉にする。
「裕二は火事で死んだ。恋人を殺して、自らガソリンを撒いて焼身自殺をした。心中なのかどうかはわからない。裕二は肺に炎を吸い込んだ跡があったけど、恋人の方は跡がなかった。警官が駆けつけたが間に合わなかった」
「警官が一人、助けようとして、焼け死んでしまった」
高田が付け加えた。
「おまえが通報してくれたんだよな」
「そうだ。結婚式の日、裕二と会う約束をしてて、あの日尋ねていくと裕二の部屋から争うような物音がしてな。それはすぐに止んだんだが、呼んでも声がしないから、警察を呼んだ」
僕は十年間、ずっと気になっていたことがある。高田は争うような物音がして警察を呼んだという。しかし、僕が警察から聞いた話では、住民やあの近辺で物音を聞いた人間はいなかったということだった。高田一人だけが争うような物音を聞いた、ということ。そんな疑念が生じると、高田が裕二を訪ねる理由も疑わしくなった。
「そもそも、おまえはなんで裕二を訪ねたんだっけ?」
「それも忘れちまったのか? 裕二が脳科学的な視点から、公告の有効性を高める方法を聞きたいって、結婚式の時話してさ、それであいつの家に行くって約束した」
裕二はミニコミ誌の編集のようなことをしていた。公告の仕事もしていたのだろう。しかし、裕二の携帯の連絡先に高田はなかった。同じ高校の先輩後輩だが高田と裕二はそれほど親しくないはずだ。それに、高田が来るのを分かっていて彼女と心中というのも解せない。裕二の死は解せないことだらけだった。
「混んでるなぁ。車止められるかな」
寺に到着した。喪服姿の人たちで溢れている。駐車場にもびっしりと車が駐まっていた。あたかもよく、前方の車が一台出た。
「お、ついてる」
高田は車を止めた。
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きのうWEB飲み会やって深酒。今日一日二日酔い。
WEB飲み会はヤバい。帰る必要がないので、しこたま飲んでしまう。酒は危険だ。
酒関係で年間35万人が死んでいる。酒の死にくらべたら、コロナなんて鼻糞である。コロナ対策とかバカなことをやるくらいなら、酒を取り締まった方がいい。
たばこの税金が親の敵のように上げられているのだから、次は酒が上がるだろう。もう税金を爆騰げするくらいなら、いっそ御禁制にして欲しい。