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第171回芥川龍之介賞候補作品 坂崎かおる『海岸通り』(文學界2月号)を読んだ

 

Amazonの商品解説には以下のような記述があった。

 

第171回芥川賞候補作。

踊る、それがわたしたちの自由

海辺の老人ホームに集う女たちのゆるやかなつながり。
いま最も注目される新鋭の最新作。

「これってフツー?」
「わたしの中じゃね」
「クズミさんのフツー、ちょっとヘン」(本文より)

海辺の老人ホーム「雲母園」で派遣の清掃員として働くわたし、クズミ。
ウガンダから来た同僚マリアさん
サボりぐせのある元同僚の神崎さん。
ニセモノのバス停で来ないバスを毎日待っている入居者のサトウさん。

さまざまな人物が、正しさとまちがい、本物とニセモノの境をこえて踊る、静かな物語。

 

 

読まずに適当に書いたのか。それとも、読んだ上で売れるような文句を並べたのか。これでいいのだろうか?

 

この作品は一見読みやすいが、理解しようと思うと、なかなか理解し難い作品。そういう意味だと難しい作品である。

 

結構裏設定があると思う。たとえば、主人公の下の名前が明かされない。佐藤さんの娘の振りをする。その理由がわからない。ウガンダコミュニティの背景が描かれていない。ウガンダ人妻とラッパー旦那の生活。主人公が最後改心するというか、倫理的な思考をするのであるが、それが唐突である。主人公はそもそも倫理的なキャラクターではない。

 

所謂、信頼出来ない語り手、のカテゴリーなのだろうが、伏線を回収出来ていない気がする。私が読みきれていないだけかもしれないが。

 

あくまで予想だが、この作品は元は3倍くらいの量があったのではなかろうか。それを、削りに削ってこの形になった、と考えると色々なことが腑に落ちるのである。

 

 

ネタバレ有り

 

 

掃除が好きで得意な主人公が掃除会社に勤めて老人ホームの清掃をする。そこに、助手としてウガンダ人が配属される。ウガンダ人は素直でいい人として扱われる。ただ、山崎という老人だけ差別心をむき出しにしたりもする。

 

基本的に黒人を無垢で善人的に描く。日本人のラッパーに騙されて結婚して来たように描かれ、また哀れを誘うように描かれるが、それはあくまで主人公の視点を通しての描写であり、ラッパーの言い分などはわからない。

 

また、ウガンダのコミュニティに主人公は加わることになる。そこは互助会のような感じで、主人公のアパート退去手続きなども、仲間の専門家などが出てきてサクッと終わらせてしまう。正直、このウガンダコミニティの実態はよくわからない。このコミニティとラッパーの関係も語られない。この辺りに、書かれていないことがわんさかあるのである。

 

純文学とは曖昧な文学であるが、この作品は曖昧さは純文学の曖昧さとは違う。純文学の曖昧さとは、カードがすべて切られた上での曖昧さであり、ミステリーのような謎を小出しにするような曖昧さではないのである。芥川賞には届かないだろう。