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アフターワクチン 第14回 その2

 

 ファンファーレが鳴り響く。灯りが落とされて、開場の入り口にスポットライトとが向けられる。ゆっくりと扉が開き、僕と理恵が腕を組んで入ってきた。僕は幸せそうな顔をしていた。自分の結婚式を生で見られるなんて、普通じゃ考えられないこと。いま裕二の体に入っている僕も、幸せな気分だった。
 理恵は綺麗だった。理恵のウエディング姿を、結婚式の時はあまりゆっくり眺められなかった。やらなければならないこと、気を遣わなければならないことが山積みで、彼女の美しさに心打たれている余裕がなかった。今は、ゆっくりと彼女の姿を眺めることが出来る。あくまで、式を挙げているのはこの時代の僕だ。だから、十年後からやってきた僕は、ひょっとしたら父親のような気持ちでいるのかもしれない。彼らの幸福を祈る、年長者の一人として。僕には彼らの幸福を護る仕事がある。僕は泣いてしまった。一回目の世界では、理恵は僕のより先に、僕の見守る中死んだ。二回目は、まだ生きていたけれど、三年後に死ぬ。そんな世界から僕はやって来た。この時代の僕も理恵も、まだワクチンを打っていないはずだ。今ならまだ助けることが出来るはずだ。
 主賓の挨拶が終わり、乾杯となった。裕二にとっては知らない人ばかりだろうが、新郎側の席はみんな僕が招待した客だ。僕は一人一人に挨拶して回る。懐かしい顔ぶれ。もちろん、弟だということは忘れずに。
「高田先輩。今日はありがとうございます」
「おう、裕二。しばらく見ないうちに随分大人っぽくなったな」
「もう大人というよりおじさんですよ。先輩より十歳くらい年上かな」
 バカ言ってんじゃねぇよ、と笑う高田の耳元に、
「今日陽が西から昇った」
 と呟いた。
 高田の顔が一瞬で凍り付くのが分かった。そして、その奥から、歓喜のようなものがわき上がってくるのも。
 高田は席を立つと僕の肩を抱くようにして会場の外に連れ出した。出るや否や、我慢しきれないといった感じで、
「おまえは、誰だ?」
「おまえの実験は成功だ」
「ああ。そうみたいだ。信じられない。本当にそんなことが起こるなんて。とにかく、おまえは誰なんだ」
 僕は扉の向こうの高砂を指さして、
「あそこに落ち着かないで座ってるやつだ」
「達也か?」
 僕は頷く。
「達也、おまえ、いつから来た?」
「2031年」
「おれの薬は……、いや、やめよう。これ以上は聞かない。先入観こそ発明を駄目にしてしまう」
「だが、そんな呑気なことを言ってる場合じゃない。十年後の世界は文字通りデストピアだ。だからこそ、おまえの怪しい薬を僕は飲んだんだぜ」
「とにかく、詳しい話しは今度、ゆっくり聞かせてくれ」
 高田は席に戻る。このあと友人代表の挨拶が控えていた。僕は高田の挨拶を覚えていた。ウイットに富み、和ませてくれるもの、言っちゃいけないすれすれの話しをして笑わせてくれた……、はずだったのに、今回の挨拶はどこか上の空で、台詞を忘れたようにおどおどして、チラチラと僕の方を見て、早々に切り上げてしまった。
 いくら時空を超える実験が成功したからって、それはこの時代の僕に対していささか失礼ではないだろうか。やっぱり、友人代表の挨拶が終わった後に話すべきだったと、僕は反省した。

 

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アメリカではバイデンの接種義務化が最高裁で差し止めになったらしい。最高裁違憲に出来るか。しかし、バイデンは想像以上に狂ってるなぁ。