いなくなくならなくならないで
奇をてらったようなタイトルであるが、このタイトルこそ作品の本質である。
死んだと思っていた友人が実は生きていて、主人公の家に居候するという話。
面白く、引き込む力も半端ない。まさに、ページをめくる手が止まらない。文章も上手いし、構成もいい。場面も分かりやすい。
ただ、読み終えたときに、一体この作品は何だったのだろうか、と空しくなる。べつに、空しくなるとは貶しているわけではなく、下手に結論づけるくらいならば、宙ぶらりんの形にした方がいいのであるが……。
小説とは作り話であり、存在するものは文字だけであり、本来リアリティはないものである。無いものにリアリティを与えるのは、読者の想像力である。
この作品は「朝日」という主人公の友達が謎の存在なのである。その謎に引きづられて、物語に入り込むのであるが、終わった瞬間に物語から放り出されて急にリアリティを失ってしまうのである。
まるで、おののくほどのリアリティを持っていた夢が、醒めた瞬間にバカらしく思うのと同じである。
それというのも、ちょっと「朝日」が非現実過ぎる。それと同時に時子の両親が「朝日」を家に居させ続けることも非現実過ぎる。
もちろん、小説なので非現実上等なのであるが、小説の内容が非現実であればあるほど、そこにはリアリティを持たせるための構造、理屈、が必要になってくる。
この作品は、そういった物語の背景の構造や理屈が希薄すぎるように思えた。だが、それでもいい、それがいい、という票が集まれば受賞もありうると思う。