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第171回芥川龍之介賞候補作品 松永K三蔵『バリ山行(さんこう)』(群像3月号)を読んだ

 

 

 

山行は「さんこう」と読む。バリとはバリエーションの略である。バリエーション登山とは、決められた登山道を上り下りするのではなく、山の中に分け入って道なき道を上り下りする登山である。

芥川賞にあるまじき読みやすさである。一般人が読んで普通に楽しめる。

主人公は建設業の営業である。主人公の会社は傾く。主人公は子供も生まれたばかりで職がなくなるのではないかと不安になる。

前半は会社仲間と普通の登山をしたり、会社が業務形態を変えるということで、いろいろとドタバタする景色が描かれる。

後半は妻鹿(めが)さんというバリ山行をする同僚と一緒にバリ山行を行う。主人公のバリ山行の体験が描かれている。

妻鹿さんは会社の中では浮いた存在。そもそも、会社は六甲山の麓にあるのであるが、妻鹿さんは関東人で標準語を話す。

この辺も、関東人ということで稀人、外部の役割を果たす。はっきり言って分かりやすい。

 


ネタバレあり

 


主人公は妻鹿さんとバリ山行を行い崖から落ちそうになり死の危険を味わう。妻鹿さん曰く「この恐怖に比べたら会社がなくなって無職になるなどという恐怖は偽物である。人々はありもしない恐怖を恐怖として想定して勝手に恐怖を感じている。実際の恐怖体験してみろ」

そういう妻鹿さんの恐怖論に主人公は与しない。人間として真に恐怖すべきは街にある。山行の恐怖など、わざわざ道なき道に入っていくたかが遊びであり、そのようなところでどれだけ恐怖を味わおうとも、それこそ偽物である。ただの現実逃避に過ぎない。というようなことを言う。

どちらが正解というわけでもないのであるが、一応そんな哲学的なテーマが物語の背景で奏でられる。

結局妻鹿さんは会社を辞め、主人公は残る。

面白いのであるが、面白い以上の何かがあるかと言われると難しい。また文体もそれほど洗練されているわけではない。

一番引っかかったのは、主人公が関西人であるのに、地の文の一人称の語り言葉が標準語で、一人称は「私」なのである。一人称体で書くならば、関西弁にすればよかっただろうし、地の文を標準語にするなら三人称一視点で書けば解決できたはずである。

まだ他の作品を読んでいないのでわからないが、ちょっと受賞は厳しそうである。