アフター・ワクチン
-2031年10月-
竜巻が舞い上がり、熱風が吹き荒れ、うねり押し寄せる波に文明が掠われていく。大気はよどみ、黒雲に覆われた空では常に雷鳴が轟いている。休む間もなく揺れる大地。赤土に横たわる妻の手を握るが、みるみる皮膚はただれ、肉は朽ち、骨が崩れていく。
嫌な夢を見た。どん、と人が倒れる音で目が覚めた。電車が急なカーブを曲がったときに、目の前の死者は椅子から落ちて床に頭を打ち付けた。薄く開いている死者の目と目が合ってしまい、僕は視線を外し車両を変えた。僕以外にも、死体のそばに座っていた何人かが車両を変えた。
毎日一万人が死んでいると言うが、実際はもっと死んでいるのではないだろうか。町中で死者に会ったのは、これが三回目だった。死ぬ日は検査をすれば分かるのに、それをあえてしない人たちがいる。出来れば検査を受けて自宅か病院で死んで欲しい。正直目の前で死なれるのはいい気分がしない。
アナウンスがちょうど目的の駅を告げた。
寺までは駅から歩いて十五分くらいだった。最近はタクシーも少なく、歩くしかなかった。秋になり、午前中の涼しい陽気だった。時間がないことを除けば、歩くという選択肢は正しい。門前の花屋で仏花を買う。
寺の前には何台も車が駐まっていた。喪服姿の人たちが屯している。喪服は人々から所属を奪う。その人達が、どういう人たちか測るには、靴を見るか、装飾品を見るか。その点僕は普段着だった。喪服の集団に紛れて門をくぐる。
たまたま本堂から降りてきた住職と目が合った。僕は会釈し、
「すごい、混んでますね」
「ご覧の通りの忙しさです。坊主、まるで儲からず」
住職は戯けて言う。
「墓参りに来ました」
「確か命日は先月でしたな。弟さんも喜ぶでしょう。わたしもあと半年の命です」
住職を呼ぶ声に引き寄せられるように、軽く会釈をすると、足早に去った。
みんな、次々に死んでいく。当分、ここの賑やかさは続くだろう。
寺の後ろ側は山になっており、そこに墓が犇めいていた。弟の墓は少し登らなければならない。僕はじっとりと汗をかく。
「裕二、僕も今日そっち行くから。理恵と一緒に。だから驚くなよ。あと、嫌味も言うな」
僕は花を添えた弟の墓に言った。午前中の清々しい風が吹いていた。歳年下の弟はちょうど十年前にコロナに罹って死んだ。二十四歳だった。当時は、どうして弟が死ななければいけないのか、随分嘆いたが、弟はあの時死んで正解だったのかも知れない。こんな世界の空気を吸わずに済んだのだから。
駅に戻り、自動改札にモバイルをかざす。金額が表示されるところにハイフンが表示されるのを見るたびに、苦笑が漏れる。妻の病院まではここから二時間かかる。今から戻れば十四時前には着くはずだ。
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あとがき。
TWにも書いたが、プロットは出来た。本文を書くだけ。といっても、本文を書くのが1番大変である。
ツイッターのスクショ小説、というのはなかなか面白いアイディアである。
1日4枚なら、多分書ける。たまに落とすかも知れないが。それほど長い作品にはならないと思う。悪のりしなければ。150枚くらいかなぁ。
ということで、しばらく小説を書きます。
読んでいただけると嬉しい。あ、でも、反ワクチンプロパガンダ小説なので、その辺はご了承下さい。
おっと。一番大事なことを書くのを忘れていた。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません
うーん、タイトル、もうちょっと捻りたかったかも。