高田の薬を飲み干すと、激しい痛みが頭と胸を襲った。そして、僕はドラッグストアーののっぺりとした床に頬をくっつけて倒れている。記憶が怒濤のように押し寄せる。何回目のタイムスリップだろうか。ゆっくり数えている暇はない。
由奈が買い物カゴを放り投げて、駆け寄ってくる。
すぐに、頭と体はリンクして、動けるようになるはず。指先から徐々に神経が蘇ってくる。
「ちょっと、大丈夫っ!?」
「大丈夫だよ」
僕は再び頭をフル回転させる。ガルシアを殺すことは難しい。向こうも僕の反撃は想定の範囲内だ。先手を読み、向こうの意表を突く必要がある。
時間が欲しい。時間さえあれば、なにか考えが見つかるかも知れない。ガルシアだって、何日も本国を開けることは出来ないはずだ。
とりあえず、僕は買おうとしていたものを手近な棚に戻す。ついでに、商品に紛れ込むようにスマホも棚の奥に放った。連中はスマホを傍受している。持っている限り、居場所は筒抜けだ。
由奈を店の外に連れ出す。
「由奈、僕を信じて欲しいんだ」
「なに急に」
僕はあたかもキスをするように、暗がりで由奈を抱きしめる。彼女の体が強張る。その耳元に、
「スマホ捨てて」
音声が拾われている可能性もある。
由奈はちょっと思案して、それでも僕を信じてポケットからスマホを取り出すと、そのまま暗い地面に落とした。
由奈の手を引いて歩き始める。
「行こう」
「どこに?」
「とりあえず、上野駅」
「ちゃんと説明してよね」
「するよ。するから、三日くらい会社休んで」
2031年
眠ってしまったらしい。目を覚ますと車は大きく弧を描きインターを降りるところだった。
「随分よく寝てたな。昨日寝てないのか?」
ハンドルを握りながら、高田は笑っていた。
「いや、そういうわけじゃないけど」
高速も、下道も空いている。僕は目を覚ますつもりで窓を開ける。ひんやりとした十一月の空気が車内に流れ込む。人が少なくなり、車が少なくなった。空気は大分綺麗になった。
ただ、寺だけは去年にもまして賑わっていた。それは、ワクチンの副反応による死者が如実に増えていることを物語っていた。今年は車を止める場所すらない。向こうで雲水の高橋さんが誘導棒を振って僕たちに合図を送っていた。その場所は白線は書かれていなかったが、車が一台止められるスペースがあった。
「いいの、ここ止めちゃって」
と僕は高橋さんに聞く。
「大丈夫ですよ。内田さんはお参りするだけでしょ」
高橋さんとは年も同じくらいで、お参りのたびに気軽に言葉を交わしていた。僕は高橋さんの姿に思わず笑ってしまった。
「今日は混んでるね」
「ええ。特に今日は。だからこんな格好してるんです」
高橋さんは腕を広げてみせる。紺の作務衣の上に黄色い反射ベストを着て誘導棒を握る姿は実に似合っていなかった。
僕と高田は喪服の集団が屯する脇をすり抜けて、寺の門をくぐった。
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久しぶりにビックマックを喰ったらめっちゃ美味かったぜ!