文学・文具・文化 趣味に死す!

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アフター・ワクチン 第2回

アフター・ワクチン 第2回

 

 このパンデミックはワクチン未接種者によるものです。みなさん、ワクチンを接種して下さい。ワクチンを接種し、未接種者の脅威から自分自身を、家族を、社会を、守るのです。もう私の忍耐も限界です。私はあらゆる手を尽くし、未接種者の体にワクチンを打ち込むことを約束します。それが、アメリカを護る唯一の手段だからです。

第四十六代合衆国大統領 ジョージ・パイデン(1942―2023)
2021年9月9日の演説より。

 

 

「この十年で出来た発明的な医療技術って、死ぬ日の予測が可能になっただけ、ってなんか皮肉。あと十日で、結婚十年だったのにね」
 理恵は病院のベッドに横たわり、オレンジ色の日差しを浴びながら呟いた。
 彼女は今日死ぬ。僕と同じ三十六歳だった。この溌剌とした体のどこに、死が存在するというのだろう。艶やかな黒髪は光を受けて輝き、肌や瞳も潤っており、話す言葉にも衰弱めいたところは一つもない。
 それなのに、彼女は今日死ぬ。
「結婚十周年の記念。スイートテンダイアモンドでしょ。買うよ」
「お金あるの?」
「うーん、硯を売る。実は貴重な清代の一面持ってるんだよ」
「あんな石くれお金になるの?」
「なるよ。そんなこと言ったら、ダイヤだって石くれ」
 また、達也はロマンがないね、などと呟いて、理恵は唐突に眠った。その顔に耳を寄せる。彼女の息を感じ、胸をなで下ろす。眠っているだけだ。一月ほど前から、彼女は突然眠るようになった。自宅で死ぬと言っていたが、自転車に乗っていて、突然眠り、頭を縫う怪我をして、そのまま入院した。
 起きている時間はだんだん短くなっていた。今日中に彼女は死ぬ。
 急に腹が減ってきた。そういえば、朝から何も食べていなかった。遅めの昼食を買いに、僕は駅前の商業施設に入る。繁華街やアミューズメントパーク、むかし人が多く集まっていた場所に行くと、この一、二年で明らかに人が少なくなったのが分かる。

  すえの露もとの雫や世の中の後れ先立つためしなるやんっ!

 壁のスピーカーから、むかしの和歌をサビに用いた、最近流行っているロックが賑やかに流れていた。
 いつもの癖で値引き品やコスパの高そうな弁当に伸びてしまった手を、ぐっと引き戻す。もうそんな必要はない。値札を見ないで食べたいものを選ぶ。自動支払機に表示される金額を無視してモバイルに入ったワクチンパスポートをかざす。金額の数字は、ありがとうございました、という文字に変わった。
 余命1年以内の人は在来線の利用と日用品が全て無料になるというサービスを政府は半年前に導入した。僕はつい先週、余命一年を切ったので、まだこのサービスに慣れていない。公園で弁当を食べて病院に戻った。

 

 

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文庫ページメーカー、おもしろい。他の人のを見てたら、字を大きくしたりだとか、色々できるみたい。まだまだ使いこなせていない。

 

さぁ、一日も落とさずに最終回まで書けるか。一応、毎日連載のつもり。連載小説は初めてだぁ。