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しろばんば 井上靖 を読んだ 感想 レビュー

 

しろばんば (新潮文庫)

しろばんば (新潮文庫)

 

 

 

ほぼ主人公の洪作の視点で、洪作の小学校時代が描かれている。時代は大正4年(1915年)から10年くらいまでだろうか。いまからほぼ百年前の世界である。舞台は伊豆の湯ヶ島井上靖の自叙伝である。

 

しろばんばのあとに、中学時代と高校時代の二遍があって、三部作となっている。

 

井上が暮らした大正4年湯ヶ島は、馬車が現役で走っている。ちょうどそこに、バスが初めて通る。そんな時代である。

 

しかし、人々の暮らしは今とほとんど変わらないように思われる。人の心などは全く同じであるし、井上はむしろ鮮やかに人の心を浮かび上がらせる。

 

小説では人間が書けているかどうかが問題となる。この作品は人間を書く見本のような作品である。本作品は基本的に洪作の視点であるが、所々で他の人物の視点も混ざる。その当たりはフレキシブルである。

 

いわゆる神視点は時として作者の語り口や作者の陰がちらついて目障りになることが多い。しかし、さすがと言おうか、見事に作者は見えない。それは、出だしをしろばんばを追うシーンから始めたり、上手く叙景描写を入れたりするなどの技が冴えているからだろう。

 

当時の小学校は正月一日は9時から始まって校長の挨拶があるとか、共同浴場だとか、いろいろ知らない話も盛りだくさんである。

 

古き良き時代と、昔の不便さとか、そういうものも味わえる。

 

 

旧制中学時代

夏草冬濤 (上) (新潮文庫)

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旧制高校

北の海(上) (新潮文庫)

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