吉行淳之介ほど有名で且つ読まれていない作家は希なのではないだろうか。
吉行作品は何作か読んだことがあるが、疲れるのである。しかも、性愛ばっかりなので、正直うんざりだとも言える。
しかし、かつてこの作風が流行ったのもなんとなく理解できるのだ。そして、現代にこの作風が受け入れられないのもよくわかる。
本作品も二十歳そこそこの若者が娼婦街に入り浸って娼婦と対等に付き合うという、当時としてはリアルティがあったのかも知れないが、今となっては荒唐無稽すぎる話である。
靖国神社の英霊の言乃葉などを読んでいると、当時の20歳はいまの45歳くらいに思われる。おそらく、吉行が活躍していた時代の20歳は今の40歳くらいだったのではないだろうか。
だから、この作品も主人公が20歳そこそこではなく、40歳くらいのうらぶれた設定ならリアリティがある。そうすると、今度は格好良さが微塵もないのであるが、娼婦街に入り浸って格好をつけようというのがすでに噴飯物なのである。
言葉も洗練されているし、文章も隙がない。上手い文章である。その流麗な文章で今の時代感覚から見ると滑稽な話をまじめに書くので、余計に滑稽になってしまう。むしろ、時代感覚が合わないなら合わないなりに、椎名誠のような書き方をしてくれたほうがまだ普通に読めるというものである。