読了して?が浮かびまくった。分かりにくい小説だという意味ではない。むしろその逆である。わかりやすすぎるのである。芥川賞候補の作品とは思えない。誰が読んでも、普通に「小説だな」と思える、典型的な小説である。まるで、友達が書いてきてみせたかのような小説である。芥川賞には、カテゴリーエラーではないだろうか。
あらすじ。19歳の女子の一人称で語られる。女子の家庭は、母親と、離婚した父親の母、の3人が住むと言う珍しい形の家庭である。そして、離婚した父親の母というのが、わがまま婆さんなのである。父親も度々登場するが、ダメ人間の典型のような描写である。これが全て、女子の視点から語られるので、正直深みに欠ける。
父親にも良い所はあったのだろうが、それが一切記されない。憎しみとは良い所と、悪い所がせめぎ合った上で割り切れない感情でないと、通りすがりの憎しみのように薄っぺらくなってしまう。
女子は、現状に不満ばかりを持ち、常に不平を漏らしている。女子の1人称で語られるので、その限りにおいてはそうなのであろうが、読者はその外側に広がる他者の論理の方を擁護したくなるだろう。
この主人公の女子のような人間は、現実世界においてもたまに見られるが、いわゆるあまり関わりたくないタイプの人間である。
気になったのは、祖母の年齢が90歳と言うことである。そして主人公は19歳なのである。もし祖母が、35歳の時に父親を産んだならば、父親は現在55歳である。
父親には現在再婚相手の9歳の子供がいるので、46歳の時に不倫をしてできた子供だと言うことになる。もし祖母が30歳の時に産んだ子供ならば、51歳の時にできた子供と言うことになる。
なぜ、こんなきわどい年齢設定にしたのだろうか? もう10歳祖母を若くしても、いや、5歳でも小説は安全になったのではないだろうか。
この小説はコロナ禍以前を舞台としている。しかし、そうする必要性がまるで感じられない。同時代性が失われてしまっている。
結末に落ちは存在しない。そこだけ妙に純文学している。いったいこの小説は何を言いたいのか、私にはまるでわからなかった。