三十分。時間の感覚とは不思議なものだ。
「ほら、見て、玲奈さん出てるよ」
理恵が慌ててテレビを指す。
2031年のノーベル物理学賞の授賞式の様子が流れていた。
嬉し恥ずかしそうに舞台に上がり盾を手にする。
「すごいね、日本人最年少らしいよ」
彼女とは一度弟の結婚式で会った。間違いなく国民的出世頭だった。いや、世界的な出世頭だ。彼女研究と活動によって地球の環境は劇的に改善した。一部では地球を滅亡から救ったヒーローと呼ばれている。
「よくやったな、由奈」
と僕は呟いていた。
理恵は笑いながら、
「やだ、由奈ちゃんじゃないよ」
テレビに映る彼女は弟の嫁、由奈の双子の姉だ。そんなこと分かりきっているし、今まで一度も間違えたことなどなかったのに、僕は何を言っているのだろう。自分で自分の失言が面白かった。
僕はモバイルを手に取り弟へ電話をかけた。
しかし、出たのは由奈だった。
「あれ、裕二は?」
「今お風呂入ってて」
「ま、いいや。おめでとう。お姉さんすごね」
「ありがとうございます。裕二と姉にも伝えておきます」
「まさに天才とは彼女のこと」
電話の向こうで由奈が笑うのがわかった。
「わたしとは大違いです。双子なのに、知識量とか全然違うんです」
「そういうのを天才って言うんだろうね」
「でも、以前わたしが、『お姉ちゃんは天才だからね』って言ったら、『数え切れないくらいやり直してるからね』ですって。意味わかります?」
「あはは。わからない」
と答えたものの、僕はなんとなくわかるような気がした。もちろん、説明することなどできないけれど。
電話を切り、シュトーレンを肴にワインを傾ける。僕は理恵にプレゼントを渡す。結婚十周年。ダイヤモンドのネックレス。
「うそ、高かったんじゃない?」
「実は貴重な清代の一面持ってたんだ」
「えっ、売っちゃったの? 大事にしてたのに。っていうか、あんな石くれ、お金になるんだ?」
「なるよ。そんなこと言ったら、ダイヤだって石くれ」
また、達也はロマンがないね。
などと言いながら、彼女は首に飾って見せた。
妻は綺麗だった。やっと渡せた。そんな達成感を、僕はなぜだか覚えた。
「テレビ消して。もっと達也と話がしたいな。結婚して十年経つんだよ」
と彼女は言う。
僕はテレビを消すためにリモコンを手にする。ちょうどテレビは、いま中国で流行っている新型ウイルスが、初めて日本に入ってきた、そんなニュースを流していた。
「僕だって話したいこと、たくさんあるよ」
テレビが消え、夜のしじまの中、僕と理恵は出会ってから今日までの話をした。
僕は今が一番幸せだと感じた。
アフターワクチン 完
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長かったーー! と言っても、初投稿が9月20日だから、3ヶ月弱しか経ってない。
その間に日本ではコロナは収束。ワクパスもどうなることやら。
だが、海外ではワクチン被害が吹き荒れている。
なんかこの調子だと、もう一作、コロナ関係の作品を書くことになりそう。
とりあえず、アフターワクチンはこれでお終い。
ただ、連載だといろいろと不備があったので、加筆修正してどっかの小説サイトにでもアップしたい。そもそも、登場人物の名前が、高田、高橋、高橋、内田、とかあり得ない。
高橋由奈と雲水の高橋さんの名字が同じなのは、結婚している設定にしようかと考えたからだが、結局、そんな下りはなかったので、名字を同じにする必要なし。紛らわしすぎる。うーん、加筆時間かかるかな。
最後まで読んでくれた読者の皆さん! ありがとう! ありがとう! ありがとう!!!