「ちょっとコンビニ行ってくる」
由奈は鞄を手に取る。
「おれも行くよ」
「大丈夫、一人で」
「小腹空いたから、なんか買う」
由奈はさっさと鞄をもって出て言ってしまったので、僕は追いかける形になる。コンビニで由奈は下着を買っていた。僕はコッペパン。彼女も食べるかもと、一応二つ買った。
コンビニまでは二百メートルほどだった。湯島はラブホテルが多い。彼女はそのひとつを見上げて、
「飲食店は休業要請だけど、ラブホテルに休業要請はないのかな?」
「聞かないよね」
「絶対、ラブホテルの方が感染すると思うんだけど」
「そもそも、飲食店が感染するっていうのも設定。逆に電車はどれだけ混んでても感染しない設定」
「ラブホテルも感染しない設定なんだね。少子化対策」
十一時を回ると、流石に道を歩いている人は減る。朝とはまるで別の場所にいるような、静かな夜の東京が僕は好きだった。静かな東京というのは、うるさい東京があって初めて存在する。十年後の未来では、もううるさい東京はない。
「もしよかったら、シャワー、使っていいよ」
部屋に戻って、僕は言った。
「じゃ、そうさせてもらおうかな」
「なんか、パジャマに出来そうなもの、あると思うんだよね」
と僕はクローゼットをかき回す。弟は以外に衣装持ちで、所狭しと服がしまってあった。いくつか引き出しがあって、その中に雑然と詰め込まれていた。なにか、スエットのようなものがあれば、サイズは大きいが着てもらうことが出来るだろう。由奈は後ろからクローゼットに顔を突っ込んでいる。
引き出しの中の服を適当に取りだしていると、その奥からコンドームの箱が出て来た。
「あれぇ、裕二君、そんなの使う相手いるんだ?」
目ざとく見つけて由奈がからかう。
弟に恥を掻かせるわけにはいかないので、僕は強がり、
「あたりまえだろ。健康な青年男子だぜ」
「でも、それ、未開封だよ」
未開封な上に、箱をよく眺めると、消費期限も切れていた。弟、しっかりしろ。
「お、おれは、たぶん、ナマでやるタイプ」
言い訳どころか墓穴を掘っていた。
「アンタ、最低だね」
「うるせぇ。ほら、これ着られそうだぞ」
灰色のスエットの上下が出て来た。それと、バスタオルを由奈に渡した。
会社のみんなには秘密にしておいて上げるから今度一杯おごってね、と嬉しそうに、浴室に入っていた。
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結末までのプロットは出来ているが、裕二の体に入った僕と由奈が結ばれるかどうかは、書いているわたしにもさっぱり分かりません。
俗に言う、キャラクターに動いてもらうしかありません。
長年小説を書いてきたが、日刊連載は初めてなので、いろいろと新しい経験が出来ております。
ワクチンパスポートの魔の手は迫ってきていて、のんびりしていられないのだけれども、この小説はマイペースで書くしかない感じ。