注:本日2度目の投稿なので、アフターワクチン 第17回 その7、を未読のかたはそちらから!
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瓶の中身を飲み干し、一呼吸置くと瓶を落とした。苦しそうに胸を押さえる。床に倒れ、ほんの数秒のたうちピタリと動かなくなる。それは明らかに抜け殻だった。高橋由奈の体から中身が抜けて、ただの物体になったのが見てとれた。それよりも驚いたのは、空気が変わった。いや、世界が変わってきている。普段僕たちは三次元を感じている。そこに、もう一次元、四次元が現れたのを、僕ははっきりと感じていた。
「なんだよ、これ」
僕は呟く。
「実験は成功した」
高田は虚空に向かって言う。
「成功しなきゃ、洒落にならないでしょ」
高橋さんはその目に四次元を浮かべていた。僕をチラリとみると嬉しそうに、
「頑張ったな僕も」
と言う。その声音に僕は言い知れぬ親しみを覚える。
「どういうこと?」
高橋さんは秘密を打ち明ける子どものように、
「アンソニー・ガルシアが2035年から1963年のステファニー・ガルシアに移ったように、僕も2031年から2021年の裕二の体に乗り移った。つまり、僕は十年後の達也、君だということ。2021年で何度もこいつらに殺されて、2021年の僕ではどうすることもできないと悟った。それで、今日まで生き延びることにした」
「高橋由奈は?」
僕は足元に転がる彼女の体を指す。それはまさに体であり空っぽの存在。
高田が僕の隣に来て、
「高橋由奈は今過去へ向かって飛び立っている。2009年の姉の元へ。やっぱり時間軸は世界に二つはなかったんだ。常に一つで、上書きされた瞬間にこれまで構築された世界は消去される。理論通りだ。彼女が過去にたどり着いた時点で、この時間軸は消滅する。彼女を起点とした新しい時間軸が世界となる」
そんな高田の独白を耳にしているうちに、世界はみるみる姿を変えていく。
四次元が五次元になり、多次元が入り乱れて溶けていく。
僕自身もその中へ溶けていき、意識と世界が一体化していく。
全ての人々、全ての存在と意識が一つになるような味わったことのない快感。
恍惚。
2031年
「ご飯できたよ」
と理恵が僕の体を揺すった。
いつの間にかソファで眠ってしまった。テーブルの上には夕飯が湯気をあげている。
「ぐっすり眠ってたね。疲れてるの?」
「いや、別に疲れることやってないはずなんだけど」
とても、とても長い夢を見ていた気がする。
「どのくらい寝てた?」
「時間にしたら大したことないんじゃない。三十分くらいだったかな?」
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明日完成しそう。引っ張らなければ!