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アフター・ワクチン 第4回 その3 その4

国のために戦ってくれる人は英雄として讃えられますよね。僕は戦争は嫌いですけど、ここでワクチンひとつ打って、国のために、先輩方のために、家族、政府、経済社会全体、地球をまもるためにワクチンを打つ人はヒーローだと思う。ってんなことあるかい! 笑ってくれてありがとう! 僕の鉄板ギャグだ!

 

アメリカのコメディアン パトリック・マッキントッシュ(1970―  )

 

 

第4回その3

 

 最近は余命が少ないからだろうか、比喩ではない炎上騒ぎがちらほら起きる。あの専門家も安穏とはしていられないのではなかろうか。いや、彼はもう死ぬのかも知れない。
 彼は完全にガルシアの思想に影響を受けたガルシストである。
 地球上にワクチンを推し進めたステファニー・ガルシアは2027年の国連総会でワクチンの致死性を認める演説を行った。大人はみんな覚えているし、子ども達は教科書で学ぶ。
 ステファニー・ガルシアはまるで舞台の主役のように演壇を独り占めした。世界中の人間を絶望の底にたたき落としながら。
「このままでは地球環境は悪化し、皆さんは死ぬ運命でした。一度破壊された環境は、次世代に永遠に受け継がれていきます。しかし、ワクチンによって人口を削減し地球環境をまもることが出来ました。地球環境を破壊する前に、地球環境をまもることが出来たのです。私の役目は終わりました。私は満足です」
 ステファニー・ガルシアはポケットから小瓶を取り出すと、中継が行われている中で、それを飲み干して死んだ。ガルシアは死んだが、人道に対する罪を得て、改めて死刑を宣告された。
 もちろん、ワクチン政策を推し進めたのはガルシア一人ではない。彼女たちのせいで、僕や妻を含め死ななくていいはずの何十億人の人間が死ぬ。しかし、死ぬ運命を変えることの出来ない僕たちにとって、彼女の言葉はある意味救いなのかもしれない。僕たちの死は犬死にではないとガルシアは言う。僕たちはこの地球を守るために死ぬ。ワクチンを打たないですんだ五歳未満の次の世代に未来を託し。どうせ失う命なら、そう考えた方が救われる。
 耳を澄ませば、テレビの音の他に、人々の泣き声が聞こえてくる。いくつかの病室では、この瞬間にも亡くなる人がいて、悲しむ人がいる。
 病室に帰ると、妻は起きていた。
「お。随分早く目が覚めたね」
 彼女は暗闇のベッドの上で頷いた。
「一つ言い忘れてた。……さっき、いろいろ愚痴っちゃったけど、達也といれて、わたし幸せだったよ」
 彼女は目を閉じた。顔に耳を近づけるまでもなく、もう息をしてはいなかった。彼女の体から、ふっと魂が抜けたのが分かった。永遠の眠りについた。

 覚悟は出来ていたはずなのに、彼女の死に僕は動揺した。指先はわなわなと震えだし、その場にへたり込んで動くことが出来なかった。
 キリンの子どもは生まれて三十分で立って歩くことが出来る。僕はキリンに似ているのだろうか。三十分ほどして動けるようになった。動かなきゃ、そっちに行くことも出来ない。
 鞄から、箱を取り出した。ダイヤモンドの付いたネックレス。彼女の首に付けて飾った。夜の小さな光を受けて、小さな石が燦めいていた。
 病院を出て夜の街を歩いた。川を渡る橋の上から、モバイルを投げた。投げるときに画面に触れたようで、水に沈みながらも光っていた。水深は人の背丈よりもあるはずだ。川底から光を放つモバイルは、なんだか秘密の宝物のように見えた。この川の水はこんなに綺麗だっただろうか。
 モバイルは便利だったが、いつからか、モバイルに支配されているように感じた。ワクチンパスポートが義務化されてからは、携帯は義務になった。バッテリー切れはもちろん違反。そこでは、切ることの出来ないGPSが音もなく作動していて、通話やメールも筒抜け。べつに疚しいことはしていないが、それでも検索のワードとか気をつけるようになった。SNSも「コロナ」「ウイルス」「ワクチン」「接種」などのワードが入っていると、
新型コロナウイルスワクチンに関係する内容の可能性があります。ワクチンについては、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関の情報を参照してください。また誤った情報を発信した場合理由の如何を問わず法的処置が……」
 と一々表示されるようになった。そんなモバイルが体から離れると、心が軽くなった。自分の心と体が、自分だけのものになった気がした。
 僕は夜の公園のベンチに腰掛けた。この時間、公園は利用禁止だ。もしモバイルを持ったまま公園に入ったら、すぐに警官がやってきて追い出される。警察のタブレットには、全てのモバイルの位置情報が表示されるから。
 でも、そんなにゆっくりしていられないし、する気もない。理恵は言った。僕といられて幸せだったと。僕も幸せだった。ワクチンによって人生を奪われてしまったが、幸せだった。幸せだったはずだ。
「ちきしょう」
 本当だったら、理恵も僕もあと五十年くらい生きられたはずなのに。悔しい。ほとんどの人間がその悔しさを抱いているこの世界ってなんなんだろう。
 もう迷わない、って決めたはずだ。鞄から掌にすっぽり収まるくらいの小瓶を取り出す。ネットで検索出来ないから、足を使ってスラムを回り、やっと手に入れた。青酸カリ。こんな世界、需要は高く、簡単に手に入るよ、という同僚の言葉を信じたが、言うほど簡単ではなかった。値段もそれなりにした。
 小さな蓋を開けて香りを嗅ぐ。アーモンドの匂いというのは、飲んだあとに胃酸と混じってそうなるのだとか。特に匂いは感じなかった。
 僕は目をつぶり、小瓶の液体を一気に飲み干した。(つづく)

 

 

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なんか最終回っぽいノリだがまだまだ続くので、明日も読んで欲しい!

 

ワクチンの無効さ加減がすごい勢いで暴かれ始めた。

歓迎すべき風潮である。

私のアフター・ワクチンは世論に抗って書いているつもりだが、ワクチン危険、が常識になると世論に迎合した作品になってしまう。うーん、複雑な心境。