文学・文具・文化 趣味に死す!

小説家 星香典(ほしよしのり)のブログ。小説、映画、ファッション(メンズフォーマル)、政治、人間関係、食い物、酒、文具、ただの趣味をひたすら毎日更新し続けるだけのブログ。 ツイッター https://twitter.com/yoshinori_hoshi  youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UC0YrQb9OiXM_MblnSYqRHUw

アフター・ワクチン 第5回 その1 その2

なんどもお答えしたとおり、私は私の仕事をしただけです。ワクチンの効果がどうだとか、副反応がどうだとか、知ってたとか知らないとか、それは私の仕事と関係のないことです。私の仕事は摂取率を上げることです。そのために死者数を水増しし恐怖心を煽り同調圧力や利他心を利用するなどの手法が有効だったに過ぎません。私の立場にいれば、だれでも同じことをしたでしょう。はい。多くの人がこのワクチンによって亡くなることは分かっていました。だから、私は打ったことにしたのです。

厚生労働省 保険局長 高木弘(1966―)
ワクチン虚偽接種により有罪。懲戒免職。


アフター・ワクチン 第5回 その1

 

 液体を嚥下して数秒、体の内側から得体の知れない恐怖が蠢いた。すぐにそれは激痛に変わり、僕はベンチから転がり落ちた。体が痙攣して勝手にのたうち回る。制御が効かない。視界に映っていた夜の闇は、七色に輝きだした。爆音の耳鳴りに襲われる。
 この薬は痛みを感じる暇もなく死ぬことが出来る。売人はそう言っていた。話が違う。
 痛みはエスカレートしていく。頭が割れる。息が出来ない。体中の体液という体液が、口、鼻、目、耳、肛門、性器から止めどなく溢れ出す。最悪だ。早く死なせて欲しい、早く終わらせて欲しい。死ぬとはこんなに苦しいことなのだろうか。それとも、これは自ら命を縮める報いなのか……。

 目が覚めると病院だった。白い天井。個室だった。
 嘘のように痛みは引いていた。ただ、着ているパジャマはぐっしょりと汗を吸っていた。どこの病院だろうか。妻の病院とは違う。窓の外の景色に見覚えはない。すっかり朝になっている。
 僕は死ねなかった。情けなくて笑えてくる。理恵、ごめんな。と独りごちる。あと一年、なにをして生きればいいのか分からない。モバイルを故意に破棄した罪は重い。もう少ししたら警察がやってくるだろう。
 もう僕はなにもする気が起きなかった。ただ、ぼおっと窓の外を眺めていた。それが十分だか、一時間かもわからない。
 病室の扉が唐突に開いた。
「お、目が覚めたか」
 若い医師は今時珍しいN95マスクを付けて、ゴーグルまでかけていた。
「具合はどう?」
「……最悪です」
 明らかに年下であろう。なぜ、そんなにフレンドリーなのか理解に苦しむ。
「昨日は熱高かったからね。意識、朦朧としてたでしょ」
 朦朧なんてレベルではなかった。僕は曖昧に相づちを打つ。
「何かあったら、そのブザー押して。鞄はそこ。スマホとかは後ろの引き出しに仕舞っておいた」
 川から僕のモバイルを引き上げたということだろうか。この医師の言っていることが今ひとつ理解できない。だが、その医者は部屋を出ようとして、最後にもっと理解できないことを口走った。
「あ、ワクチン、打つかい? 余りが出るから」

 ワクチン、打つかい?
 医者の言葉に耳を疑った。世の中には冗談にしていいことと悪いことがある。
 医者は悪びれる風もなく言葉を続ける。
「罹患中の患者にも効果がある、って研究もあってね」
「勘弁してくれ」
「……いやならいいけど」
 医者は不思議そうに首をかしげ去った。
 部屋はもとの静寂に戻った。
 僕は枕元の引き出しを開けた。そこには随分型遅れのiPhoneが入っていた。僕のモバイルじゃない。ただ、指が画面に触れて日時が出た。僕はiPhoneを戻そうとする手を引き戻し、もう一度日時を見た。
  12:47 9月23日(木)
 時間は空の青さから見てもそんなものだろう。問題は日付。今日は、結婚式の十日前、いや、一日経ったから九日前。十月二日のはず。
 僕はもう一度画面の日付をみる。
  12:49 9月23日(木)
 時間は進んでいる。誰のiPhoneか知らないが、画面をスワイプする。FACE IDにはじかれて……、と思いきや認証される。どうして……。FACE IDを登録していないのだろうか。iPhoneはむかし使っていた。カレンダーを開く。九月二十三日。
 僕は日付よりもっとおかしなものを見つけた。西暦が2021年になっている。
 あまり、他人の携帯をいじくるのは褒められたことではない。僕はYAHOOニュースのアイコンをタップした。

9/23(木) 12:31更新
・自民総裁選 決選投票が濃厚か
・台湾 TPPはWTO加盟以来の好機
野田聖子氏 当選は私以外の誰か
眞子さま「最後の行事」に出席
・飛び石連休初日 高速道路は渋滞
・バドでリオ金 高橋さん妊娠報告
・俳優と母 三十歳前田敦子の現在地

 何回更新を押しても変わらない。
 トップニュースが並んでいた。その下には、

・米、途上国などにワクチン五億回分を追加寄付」
・マイザー製ワクチン五―十一歳にも安全。治験で強い免疫反応
 ワクチンだ、コロナだ、などのニュースがごろごろしている。たしかに、2021年の秋はワクチンパスポート、ワクチン接種義務化に邁進していた時期だ。僕は恐ろしくなって、スマホを手放した。急に吐き気がしてきた。
 誰のか分からないスマホを引き出しに戻そうとしたとき、引き出しの中に入っていた腕時計に目が行った。銀色の腕時計。それは、弟の就職記念に僕がプレゼントしたものだった。時計は正確な時間を刻んでいた。SEIKOの自動巻。四十一時間動く。つまり、この時計は四十一時間以内に引き出しに収められたということ。
 まさか……。そう思ってスマホをもう一度手にする。このケース、見覚えがある。開く。写真にアクセスする。そこには、弟が映っている。僕が映っているものもある。この携帯は弟のものだ。起動しないスマホの黒い画面に映るのは、弟の顔。スマホを開いてカメラを起動し、インカメラにして自分の顔を見る。十年ぶりの、弟との再会だ。
 記念に一枚、弟の顔をした僕を撮った。

 

 

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落とさずに書き続けている。われながら凄いw

自分で言うのもなんだが、面白くなってきたと思う。ここから、わたしの大好きなタイムリープが始まる。

ツイッターハッシュタグタイムリープを入れとくべきだったぜ。

ではまた明日。