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アフター・ワクチン 第7回 その1

数年間で確実に反ワクチンの数は減る。コロナ感染によって重症化するか死ぬからだ。体力とワクチンを忌避するバカから順に死ぬ。自然の摂理。

2021年秋頃のあるツイッター


アフター・ワクチン 第7回

 九月二十八日、僕は退院した。僕の場合はECMOも付けなかったので、発症日から十日間経過し、かつ、症状軽快後七十二時間経過した、ということで行動制限はない。会社にも行っていいし、買い物も自由。
 病院は日暮里にほど近いところにあった。弟のワンルームマンションは湯島なので、ちょっと荷物は重たいが歩いて帰る。場所もうろ覚えで、免許証の住所をスマホに打ち込んで調べた。が、なぜだが帰るべき方向を感じた。試しに、スマホの地図を見ないで、感じるままに歩くと、弟のマンションの前に出た。弟の記憶が、無意識の中にひっそりと収まっている感じだった。弟のマンションに行ったのは三回だけだった。一回目は引っ越しの手伝い。二回目はなんだったかすら忘れた。なにか、漫画かゲームを借りに行ったんだっけ。三回目は遺品の整理。
 弟の部屋はあのときと全く同じだった。机の上には新品の腕時計が箱に収まったまま置いてあった。革ベルトの、舶来品の、シンプルな自動巻時計だった。弟の遺品ということで、とっておいてある。どこにしまったかは忘れたけど。
「僕の上げた時計、気に入らなかったのかな」
 などと誰もいない部屋で呟いてみた。
 スマホを充電し、物の散らかった床を一通り片付けて、ベッドの乱れたシーツを直しつつ、寝転ぶ。あいつ、彼女いたのかな。スマホのアルバムを見てみたり、弟の脳の無意識部分などを探ってみたが、哀しいかな、いないようだった。八時前に食事を済ませる以外、部屋の中で大人しくしていた。
  この時期の僕は流通・小売業界で働いていて忙しい。仕事が終わるのは病院の消灯時間が過ぎてからだ。
 十時頃、僕は僕に電話をかけた。
「兄貴、仕事終わった?」
 僕は弟の口調を思い出しながら言った。
「ちょうど。さっき家着いたとこ。どうだ、具合?」
「問題ない。全然平気。あの日熱がちょっと出ただけだったよ」
「そりゃなにより。今度の日曜、暇?」
 僕はスマホに入っている予定表を見る。
「三日だよね。大丈夫」
「晩飯でも一緒に喰おうよ。おまえの快気祝い」
「ありがとう」
 僕は過去、裕二とのやりとりを思い出した。裕二は僕に何回か、食事でもしよう、と誘っていたが、僕が忙しくて断っていた。会いたくない、とかではなく、この時期新店舗の出店と重なって、本当に忙しかったんだ。やっと、僕は弟を誘ってくれた。
「理恵も行くから。なんていうか、ちゃんと話してなかっただろ。結婚」
「あー、気を遣ってくれてありがとう。そうだね。先輩に会えるの嬉しいよ。久しぶりだ」
 弟は僕と同じ高校だった。弟は理恵のことを先輩と呼んでいた。あと、高田のことも。高田には聞かなければならないことがある。ガルシアの兄とも親交がある高田。なにか知っているはずだ。
「兄貴、そう言えば、高田先輩ってどうしてる?」

 

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2031年の僕が2021年の弟の体に転生して2021年の僕に電話をかけている、というややこしいことになっている。

 

タイムリープして過去の自分と遭遇するものを初めて書いたが、ややこしい。