今回はあっさり近所の図書館で揃った。
あらすじ
地方出身30代半ばの女性が主人公。東京住まい。OL。同年代の男性と結婚して都内のマンションにくらしている。旦那もサラリーマン。
ある日、旦那は飲み会で後輩から水をかけられ、水道水恐怖症となる。そして、以来、風呂に入らなくなる……。
風呂に入らないことにより悪臭を撒き散らす。そのことにより、徐々に社会と距離が生まれていく。
いきなり、社会との距離が生まれるのではなく、だんだん臭くなっていって、徐々に社会生活が営めなくなるところが面白い。
主人公は子ども時代に「台風ちゃん」という魚を飼っていた。その魚を河に放流しようとしたが、川に水がなくたらいごと置き去りにした。翌日の大雨で台風ちゃんはたらいから出た。(しかし、大雨なのにたらいが前日と同じ場所にあるとか、今ひとつわからない)
感想
個人的に文章もすごく好きだ。
ネタバレ有り! と言ってもネタを知っていたかと言ってこの作品の価値は損なわれない。
主人公が地方出身と言うことで、最後は地方に移住する。そうすることによって、東京と地方との対比も描かれている。
風呂に入らなくなる、という短編的なネタで200枚?ちかく引っ張るのはなかなかすごい。その分冗長な感じもしないでもない。
最後の川の増水とともに夫が消えてしまうところも賛否の分かれる所だと思う。どういう風に読んだら良いのかわからない。事故で片付けるのか、それとも、自殺と捉えるべきか。とらえ方で作品の内容が変わってくる。
夫の消失は台風ちゃんの消失のリフレインである。台風ちゃんを置き去りにした罪悪感と、旦那を放置した罪悪感なるものが重なる。
最後。また増水のあとの水たまりに魚が現れる。夫と魚は同格に扱われているような錯覚になる。
一番気になるのは、なぜ温泉に行かなかったのか。カルキのない温泉に行けば一発で解決したような気もする。
あと、わざわざ冷たいペットボトルをかけないで、湯船に沈めておいて、温かくしてから使えば良いのに、などと無粋な突っ込みを入れたくなる。
この作品は芥川賞的ではあるが、ちょっと弱い。文学的な表現、文学的な技法が余すことなく使われているが、素材がちょっと弱すぎる。三つ星フレンチレストランの厨房で素麺を作ったような、オーバースペック感が否めないのである。
これまで読んだ4作品のなかでは、これが一番受賞にちかい。
発表は14日なので、これから最後の作品を読む。