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165回 芥川賞ノミネート作品 李琴峰 『彼岸花が咲く島』 を読んだ

 

 

 

 

 

SFである。ただ、純文学系のSFなのでSFを書くことよりも、文学的舞台を作るのが目的で結果SFになってしまった感じ。なのでSF的な蘊蓄はない。

 

あらすじ。

 

17歳くらい? の少女が一日で一週出来るくらいの小さな島に流れ着く。少女は記憶を失っている(この時点でご都合主義が過ぎるのだがそれはさておき)。

 

流れ着いた島では、死後の世界が信じられていたり、非文明的で非科学的。しかし、自動車が走っていたり、風力発電があったりする。支配者というか、島の指導者は全員女。

 

島で話されている言葉は二つで、一つは女語という普通の日本語。もう一つはニホン語という漢文読み下しプラス中国語。ちなみに流れ着いた少女はヒノモトコトバというほとんど日本語を喋っている。

 

ネタバレ注意

 

この作品は純文学作品であるが、ネタバレするとツマラナイ。手品の種明かしみたい。ん? ということは純文学ではない? とにかくネタバレ注意。

 

なぜ、その島は二つの言葉が喋られて、女が支配者かというと、日本と中国から迫害された人間がたどり着いた島だからという。

 

島の中でもまた迫害が起こり、迫害の原因は男が権力を持つからだという結論に至る。ゆえに、女が権力を持ち指導者となれば迫害や戦争や虐殺は起きない。だから、この島では女しか指導者になれない。

 

小説だから、どんな設定だろうが有りだが、ここからは芥川賞目線で考えてみたい。

 

まず、男が争いを好み、女は好まない、というのは偏見だろう。武則天はじめ好戦的で権力志向の女はいる。男は戦争が好きというステロタイプを前面に押し出してしまうと、ちょっと芥川賞的には厳しいのではなかろうか。

 

もう一つ。上記の理由で、ノロと呼ばれる支配層の女にしか、島の歴史を教えていない。だから、男達は世界がどうなっているかも、なぜ女しか支配者になれないかも分からず、ただ、そう決まっているから、と納得している。

 

いわゆるパターナリズムである。馬鹿な男どもは真実を知る必要はなく、懸命な女の言うことを盲信していれば良い、という。この思想も芥川賞的にはどうなのだろうか?

 

最後はすこしだけ、「男にも教えてやる?」といった感じで終わっているが、その男も特定の男である。

 

作品そのものはつまらなくはない。ただ、上記のような思想的な問題と、思想のための設定に無理が感じられることから受賞は厳しいと思う。

 

前の作品よりは個人的には好きだけれども、まだ前の作品の方が芥川賞には近かったのではなかろうか。

 

 

 

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