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第百回 オール讀物新人賞 をりをり よみ耽り を読んだ。

貸本屋若い女性「せん」が主人公という、時代劇物でもかなり異色なのではないか。

 

葛飾北斎などが出てくるので、江戸後期の話である。

 

御公儀の検閲が厳しく、貸本屋も怪しい本を扱うとしょっ引かれる。主人公の父親は本の挿絵を彫る彫り師であったが、御禁制の本を彫ったがために、「板削り」にあった。

 

それがショックでばくちにハマり自殺。

 

せんは偶然、父親が削っていた絵師と出会う。

 

特段オチというオチはない。御公儀との駆け引きが見せ所だろうか。

 

ひさしぶりに100%エンターテイメント作品を読んだ。読んで思ったのは、純文学系とは書きかたが違うということだ。

 

たとえば、こういった地の文は純文学系には間違えても出てこない。

 

「足音を殺すように歩いて行く。かすかに葉擦れのようなしのぶ音もかさなっていたが、せんはそれに気づかなかった」

 

この一文で読者はせんが誰かに付けられていることが分かるのであるが、おそらく、純文学系ならこういう風に書くのではないだろうか。

 

「足音を殺すように歩いて行く。かすかに葉擦れのようなしのぶ音が聞こえ振り返った。闇が広がっていた」

 

あまり上手くはないが、こういう書き方に慣れてしまっている。

 

タイトルは良い。見た瞬間に読みたいと思った。珍しいタイトルだ。ぱっと見ただけでは意味がわからない。

をりをり、とは「その時々」とか「そのつど」といったような意味。