語り手は林さんという30才の台湾人女性。作者だろうか。大学院時代の友人と五年ぶりに会い、中華を食う。
大学院時代の友人である浅羽は、台湾人と結婚して日本語教師をしている。
近年、越境文学というのが流行っているのか、夏の文学講座のテーマも「越境・往還することば」であるし、数回前の芥川賞の石井さんの「百年泥」も越境文学であった。
だが、「五つ数えれば三日月が」の面白い点は、越境が様々にクロスしているところである。
まず、語り手は日本学び日本で働く台湾人。浅羽は、台湾で日本語を教える日本人、さらに、結婚した相手の家には台湾統治時代の祖父というのがいて、これが忘れかけた日本語を話す。
さらに、浅羽は中国で中国語を習ったので、台湾語がわからない。台湾では「中国語みたい」などと言われる。
主に、浅羽が台湾人と結婚して、そこでのカルチャーの違い、台湾人にはなりきれない自分、のようなものがストーリーなのである。
分かってて結婚したんだろ、と言ってしまえばそれまでなのであるが、その分かってて結婚したにもかかわらず煩悶するところに読み応えがあるのではなかろうか。
物足りなく感じた点は、せっかく語り手が日本で暮らす台湾人という設定なのだから、そこをもうすこし書き込んで欲しかった。これなら、台湾人である必要も、日本で暮らしている必要も、それほどないのではなかろうか。
あと、浅羽の暮らしぶりはどう贔屓目に見ても恵まれてる。旦那が気持ち悪いくらい優しいし、姑も舅もやさしい。旦那にもうすこし人間味を持たした方がよかったかも知れない。
あと、語り手は同性愛者なのだろうか? そのような描写は少しあるのであるが、たぶん、わたしは漢詩を読み切れていない。日本語訳はかいてあるが、訳しきれない古典や故事の蘊奥や深意があるはずである。
たぶん、今日が発表じゃなかっただろうか? わたしはこれを書いている今、発表を見ていない。ヤフーとかを開いて発表が目に入ると嫌なのでヤフーなどは開かないようにしている。
今回は5作中4作読めたので読めた方だと思う。
今回の芥川賞を予測するのは難しい。私が読んだ4作の中から選ぶとすれば、この「五つ数えれば三日月が」であろうか。
もしくは、私が読んでいない、今村夏子『むらさきのスカートの女』のどちらかだと思う。
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