面白い。
最近、意識的に名作を読もうと心がけている。読めば読むほど、文学、小説の世界は広がっていく。こういう書き方があるのかと勉強になる。
とくに、この作品は色々な意味で刺激を受けた。
アメリカ人の捕虜の人体実験をするのであるが、その人体実験そのものを直接描くのではなく、周囲の人間を描いていき、また、後日談などを描くことにより、アメリカ人捕虜解剖実験の風景を描き出している。
ある人は成り行きで、ある人は出世のため、ある人は破れかぶれで、ある人は嬉々として、アメリカ人を解剖する。
ただ、この本の裏表紙に書いてあった解説、
「戦争末期の恐るべき出来事――九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化し、(中略)いかなる精神的倫理的な真空がこのような残虐行為に駆り立てたのか? 神なき日本人の”罪の意識”の不在の不気味さを描く」
とあるが、生体解剖事件を主眼にしてしまうと、この小説が矮小化されてしまう。生体解剖事件はギミックでしかない。
この小説の中に出てくるように、「福岡市を無差別爆撃して無辜の民を殺して回っている米軍より、麻酔を打って殺してやるのだからよほど人道的」という戦時中の感覚がないと、本当に単なる残虐で不気味な小説に成り下がってしまう。
それにしても遠藤周作の医学的な描写は上手い。よほど知識がないと書けない。