第161回芥川賞ノミネート作品である。古市氏同様、この人も前回に引き続きのノミネート。
タイトルのカム・ギャザー・ラウンド・ピープルとは、ボブ・ディランの名曲「The Times They Are A Changing」の歌詞の冒頭
Come gather around people
Wherever you roam
And admit that the waters
Around you have grown
から取られている。The Times They Are A Changingはわたしの数少ない持ち歌の一つなのですぐにわかった。
作品の内容はまさに、The Times They Are A Changingであり、その周りの人々を描いたものであり。
あらすじは、主人公の幼少期から、おそらく20代後半? くらいまでが描かれる。その時代、その時代のエピソードが、現在と結びつく。構成はなかなか上手い。
嵐の夜、会社帰り、電車が止まってしまって、仕方なく不思議な喫茶店に入る。その喫茶店にいたデモなどを撮影してyoutubeにUPしているイズミと仲良くなる。
イズミの撮った映像を見ると、LGBTのカリスマとして活躍しているのは、高校時代、仲の良かった男友達であった。
ラストシーンは、主人公とそのLGBTの男友達が再開して……。
という話である。が、オチは賛否両論あるので是非各々読んでいただきたく。
今は芸術作品といえども些細なことでも問題になる。この作品のLGBTの扱いはこれで大丈夫なのか、少し心配になった。
ただ、この作品も現代社会のゆるいつながり、というようなものを表現していると思う。主人公の周りにはイズミが象徴するように、行き当たりばったりで出会った人間である。
そこには、抜き差しならぬ人間関係は存在しなく、明日からでも喫茶店に顔を出さなければ消滅してしまう人間関係である。
例えば喫茶店を雰囲気を形容する文章はこうなっている。
【お店は、最初に入ったときからあまりその印象が変わらない。いろんなことを聞き出されたりされないし、疎外された気分を強く感じることもない。私のことをよけいにもてなしすぎたりしないけれど、私が彼らに持つのと同じくらいの好奇心で私のことをたずねてくる】
この雰囲気が喫茶店のみならず、小説全体に漂っているのである。
ただ、それがために弱いところもある。わたしが腑に落ちなかったのはラストでLGBTの男友達が、「主人公は自分にとって神である」と力説する。だが、どこがどう神なのか、まったくもってさっぱり分からないのである。
この部分は減点対象になるだろう。あと、文章がわたし好みではなかった。読みにくいということはない。むしろ、読み易すぎる。文学作品にとって読み易い文章というのは必ずしも長所とはなり得ない。まるで、草稿のように、さらっと書かれている印象を受けた。これは好みの問題かも知れない。
いろいろ難癖をつけたが、充分に読むに値する小説である。ただ、やっぱり受賞確実とは言い難く、その他の作品如何によると思う。