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第168回 芥川賞 候補作 佐藤厚志(40)「荒地の家族」(新潮12月号)を読んだ

 

 

 

今回は本当にTHE純文学が続く。

この小説も面白い。最初は、また3.11ものか、と食傷を感じたが、読んでいくと3.11は切っ掛けのひとつで、物語の本質には関わってこない。むしろ、3.11は特別な不幸ではなく、普遍的な不幸であり、3.11に限らず、現代人は様々な不幸を抱えていることが見えてくる。

 

というのも、主人公視点でどん底のように描かれているが、客観的には3.11から立ち直り、仕事もたくさん抱えていて、目だった不幸はない。

 

【ネタバレあり】

 

逆に、親友だった明夫のほうが目も当てられない凋落っぷりで、仕事は続かない、大病にかかる、犯罪に手を染める、などなど、挙げ句の果てに自殺してしまう。

 

妻に逃げられたとはいえ、子どもと母親と平穏に暮らす主人公の不幸度はそれほど高くないのである。

 

私がこの小説を楽しめたのは、舞台である3.11直後の亘理を知っているし、つい先日原子力記念館に行ったので、真白い巨大な防潮堤など、ありありと光景を目に浮かべることが出来たからかも知れない。

 

3.11という特殊性を除けば、なにもない平凡な田舎町で、特段の事件が起こることもなく、淡々と物語が進んでいく。しかし、面白いのだ。読ませるのだ。

 

主人公がニュートラル過ぎるというのもいいかも知れない。多くの読者が自分を投影して読書に耽ることが出来る。

 

ただ、作り物みたいな脇役が多いのが鼻についた。海辺の老人、公務員の友人、野本、高木。

 

とくに、野本のインパクトがデカいので、続編では野本物語が是非とも読みたいと思った。

 

東北の陰鬱とした雰囲気がよく現れている。なるほど、酒がなければやっていけないことがよくわかる。わかってはいけないのかも知れないが。

 

あと一作、読めそうである。