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第168回 芥川賞 候補作 グレゴリー・ケズナジャット(38)の「開墾地」(群像11月号) を読んだ

 

 

 

なかなか評価が難しいし、評価が分かれる作品だと思う。

 

あらすじ。主人公は南部に住むアメリカ人の両親から生まれ、継父のイラン人にアメリカ南部で育てられて、日本に留学している。その主人公がお盆休みで故郷のアメリカ南部に帰ってきて、数日間を過ごすという話。

 

著者は越境文学を研究しているようで、この作品にも、言語と文化のもやもやとしたものがにじみ出ている。

 

ただ、作品のストーリー自体は、実家でだらだらと回想を挟みながら数日間を過ごすという、エキサイティングとは言い難い展開。回想も、母親と父親が喧嘩した、とか、父親の従兄弟が来た、とかまさに純文学である。

 

継父との交流を描くのであるが、継父がなにをしているのかというと、庭の「葛」と戦っているのだ。私もこの作品で初めて知ったのだが、葛は19世紀の終わりに、土壌流出を防ぐための植物としてアメリカ政府主導で植え付けられたものらしい。それが、大繁殖してしまい困っているとのこと。

 

ぜひ、「葛 アメリカ」でググって欲しい。凄まじい画像の数々をご覧いただける。

 

この外来種問題は、日本にいる限り、日本こそが外来種に悩まされていると考えがちであるが、日本原産の外来種アメリカを悩ませていると知ると、一方的にやられっぱなしではない感じでホッとする。

 

おそらく、著者はそのことも読者に伝えたかったのではないだろうか。そして、この小説の面白い所はこの葛の描写なのだ。

 

父親は葛を除草しているが、いずれ体力的に出来なくなる。そして、庭も家も思い出もすべて葛に覆われてしまう、という幻影を主人公は見る。

 

まさに、無常観が溢れている描写なのだ。面白い! という作品ではないが、受賞する可能性はあるかも知れない。