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小説家 星香典(ほしよしのり)のブログ。小説、映画、ファッション(メンズフォーマル)、政治、人間関係、食い物、酒、文具、ただの趣味をひたすら毎日更新し続けるだけのブログ。 ツイッター https://twitter.com/yoshinori_hoshi  youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UC0YrQb9OiXM_MblnSYqRHUw

アフターワクチン 第10回 その5

 

 いつかは誰かにバレることは覚悟していたが、いきなり言われたので驚いた。
「なんでわかった?」
「は? バカ? 冗談に決まってんじゃん」
 僕も冗談めかして笑って見せた。三杯目の生を飲み干して、お変わりを頼む。バレてないのはよかったが、信じられていないっていうのも、自分が認められていないようで複雑な心境だった。
「アンタはどこから見ても裕二。でも」と由奈は眉間を寄せて、「裕二は字が下手だった。社内イベントで、ほら、式次第みたいの書いて壁に貼ったでしょ。アンタ子どもの頃習字習ってたとかで、書かされてたけど、笑えるくらい下手だったじゃん」
 裕二は僕と一緒に習字教室に通っていた。でも、すぐにやめてしまって、僕だけ大人になっても続けていた。
「あれは、わざと下手に書いた」
「ふーん。そうは見えなかったけど。最近変なことは確か。仕事も忘れちゃう。ワクチンも急に嫌いになって、わたしはなんか避けられてたような感じだったけど、今はそんな気がしないし、デモなんか絶対に来ないと思ってたけどアンタは来た。お酒だって、そんなに好きじゃなかったよ、つきあいでは飲んでたけど」
 そう言えば、裕二はいつも控えめで、僕が二杯飲むと一杯飲む、みたいな感じだった。ほんとは酒、好きなんだよ。と運ばれてきた四杯目も半分くらい一気に飲む。
「どっちだよ。おれは裕二か? それとも裕二じゃないのか?」
「アンタは裕二だよ。それは間違いない。ただ、コロナに罹った後性格が変わったのも間違いないと思う」
 人間の中身が入れ替わりました、などという話、信じろという方が無理なのかも知れない。
「まぁ、この際、おれが誰であるかはひとまず置いといて、信じてもらいたいのは、おれが未来で見てきたこと。ワクチンパスポートは実用化され、来年には接種が義務化される。毎年一発ずつ打たれて、五年後にはみんな死ぬ体になっちまってる。だから、おれたちはこの災害を止めなければならない」
「昔のアンタは、ちょっと頼りない感じで、優柔不断で、世間の空気に流されまくる感じで、でも、すっごく優しいとことか、同期だったし、わたしの相談や悩みもよく聞いてくれたし、それで、ちょっと好きだった。付き合えたらいいかなぁ、なんて思ってた。でも、今のアンタにはそんな風には少しも感じない。アンタと恋愛しようなんて思えない」
「嫌われた、かな?」
「違うよ。今、アンタとわたしは、同士だ」
 YAHOOサイトのトップニュースにもデモが載っていた。これほど大きく取り上げられたら、過去の僕だって気がつかないはずがない。ひょっとしたら、僕が過去に来たことによって、歴史が変わったのかも知れない。
 この日も由奈は普通に帰っていった。飲み過ぎた酒で、足元がちょっとおぼつかなかったが。月曜からの仕事の段取りはまかせて、と改札の向こうで手を振っていた。
 部屋に戻って、ネットを開くと、YAHOOのトップに今日のデモが載っていた。SNSでもデモ、暴動は大きく取り上げられていて、賛否は分かれていた。もう六割がワクチンを打っていて、ワクチン非接種組はどんどん少数に。でも、接種した人でさえ、ワクチンパスポートはおかしいと声を上げてくれている。二回打ったが三回打つのは嫌だという人もいる。話が違うと言う人も。ワクチンの効き目が科学的に揺らいできている。この声を、大きくしていかなければならない。

 

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緊急事態宣言開け初の飲み会。

ビールの4,5杯、どうってことないだろ。

と飲んでいたらベロンベロン。

随分弱くなったものだ。