正直、こんなのあり? という感じ。
話はフィリピンのジャングルをさまよい歩く話。ひたすら彷徨っている。ときどき、ドンパチもする。極限状態の人間ドラマもある。
面白いのかつまらないか。
滅茶苦茶面白い。ズルいくらい面白い。テンポは決してよくはないが悪くはない。
もちろん、話の内容はどす黒いのであるが、どこか諦観的な明るさがあるのだ。それはたぶん、インテリの矜持のような気がする。とくに、最後の精神科医との会話はインテリ兵隊の誇りのようなものを感じるのである。
暴力ものの小説はいくらでもあるが、野火の暴力は暴力とは言いがたい。残酷とも言い難い。例えるならば動物ドキュメンタリー的な残虐さだろうか。それは残虐なのであるが同時に自然の摂理でもある。
映画も一応観てみたが、わたしにはこれは違うと思った。映画には明るさがないし、小説のテンポとも違うし、登場人物の価値観が現代的に思えてしまった。それは映像という手段から仕方が無いことかも知れない。
映画がつまらないと言っている訳ではないが、小説のおもしろさは再現できていない。
3回ほど前の芥川賞を取った高橋 弘希はインタビューの中で、自分の作品と野火が似ている、と言っている。似ている似ていないは主観なのでどうすることも出来ないが、おそらく、髙橋は野火のような作品を書きたかったということが伝わってきた。