浅田氏の作品は好きだが、この作品はまた特別に美しい。六十年代の青春がこれでもかというほど美しく描かれている。伊能写真館の倅が主人公で、それを取り巻く人々の物語り。また、舞台が六本木というところもたまらなくいい。
六本木が古い江戸の街から、今の繁華街に変わる瞬間を描いている。
主人公たちは古い江戸っ子で、川を越えてくる連中を軽蔑している。川向こうから大挙してディスコにやってくる連中の描写はこうだ。
【やつらときたら、みんなお揃いの派手なアロハにマンボズボンをはき、盆踊りみたいなステップでフロアを占領してしまうのだった。】
他にも上手い描写、美しい描写が山のようにある。
例えば、都電の線路の描写はこうだ。
【雪を吸って真黒に濡れた道路に、水銀を流したような二本の線路がはるかな弧を描いていた。】
文章よし、物語りよし、非の打ち所がない絶品の短編連作である。20年以上前の作品だ。惜しむらくは、発表と同時に読めなかったことである。