めちゃくちゃ面白い。山本周五郎が廃れない訳が分かった。
江戸時代の経師屋の話である。経師とは屏風や襖を作ったり修理したりする職人のことである。
江戸時代の庶民の話であるにもかかわらず、目の前で起こっているような気にさえさせる。
一人一人の感情の抉り方がすごい。主人公だけではなく、端役の心も余すことなく書いている。こういうのを筆力というのであろう。そして、そのための物語の作り方も上手い。
物語の主人公は「さぶ」ではなく「栄二」である。だが、さぶがいてこそ栄二を浮かび上がらせることが出来る。
物語は、栄二が盗みの嫌疑をかけられることから始まる。この盗みの真相がなんなのか、一本ミステリーとしてバックボーンにあるのであるが、この作品の面白いところは、栄二の成長とともに、盗みの真相などはどうでもいい、という境地に達するところだ。盗みの真相がわかってちゃんちゃん、という話ではないのである。
しかし、一応謎は解明される。読者も、栄二も、もうどうでもいいや、と思っているところで謎は解明されるのだ。読んで損のない傑作。
なんと映画化されていた。しかし、このキャスト……、怖いもの見たさで観たい気もするが……。