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陽炎の辻 佐伯泰英 感想 レビュー

 

陽炎ノ辻 居眠り磐音(一)決定版 (文春文庫)

陽炎ノ辻 居眠り磐音(一)決定版 (文春文庫)

 

 

歴史小説は書いたことがあるが、時代小説は書いたことがなく、なんとなく時代小説を書きたいなと思って、ならば佐伯先生の作品は外せまいと、おすすめに表示されていた陽炎の辻を手に取った次第である。

 

いま時代小説の旗手と言えば佐伯先生ではなかろうか。

 

で、居眠り磐音、滅茶苦茶面白いのである。ただただ面白いのである。話の筋とか、絵に描いたような悪人とか、クッダラナイが面白いのである。

 

例えば96P 、やくざが両替商に乗り込んできて、剣術道場の用心棒と喧嘩になる。やくざは表に控える浪人を呼ぶ。入ってくる浪人の描写。

 

「先生!」

 夜風とともにぬうっという感じで、痩身の浪人が懐手で戦いの場に入ってきた。

 羊羹色の袷の襟は毛羽立ち、袴の裾もほつれていた。

 痩身から酒とも汗の臭いともつかぬ異臭が漂ってきた。

 総髪の頭はぼさぼさだったが、頬の殺げた顔には髭が一本も生えてない。

 切れ長の細い双眸は血走っていた。

 

と出てくるのは福本清三さん意外の何物でも無いのである。

 

こんな具合で、時代劇ファンならキャストは目に浮かぶし、おそらく佐伯先生自身がキャストを浮かべながら書いていらっしゃると思われる。

 

二朱銀に偽金を混ぜるのは犯罪だが、それ以外はそもそも犯罪と呼べるの? と言いたくなるような、訳のわからない悪巧みの連中をバッタバッタと切ったり、挙げ句は江戸市中で弓を射かけたり船を炎上させたり、まさに、江戸版ジェームズ・ボンドである。

 

アクション痛快時代劇に細かい指摘をするのは野暮というもの。本当に、ページを繰る手が止まらない。一気に読み終えてしまった。

 

しかし、読後感は一日遊びほうけてしまったような、一抹の虚しさが残るのである。

 

 

 

 

どこかで誰かが見ていてくれる 日本一の斬られ役・福本清三 (集英社文庫)

どこかで誰かが見ていてくれる 日本一の斬られ役・福本清三 (集英社文庫)