かみいますやまのものがたり、と読む。浅田作品は大好きだが、この作品はタイトルもいまいちだし、書き出しもぱっとしないし、表紙もつまらなそうなので敬遠していたが、読んでみてびっくりだ。物の怪をこれほど美しく描いた作品が他にあろうか。
作家が怪談を書くことはよくあって、怪談集のようなものも出ている。この作品もジャンル分けするのなら怪談の部類に入るが、怖いというよりも美しく、登場人物たちも物の怪を美しいものとしてとらえている。
まだ、人々がキツネにつままれていた時代の話である。曾祖父、祖父、叔父、わたし、と験力をもった神官一族の話である。もちろん、フィクションなのであろうが、まるで、目の前にその一族がいるような、そんな気持ちにさせ描き方で、さすが浅田次郎と言いたくなる。
わたしの大好きな本で、日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか、という論考がある。その一つの答えがこの作品にはあるかも知れない。験力とは果たしてなんなのか。見えないものが見えるとはどういうことなのか。見える人間と見えない人間の違い。霊とはどういうものか。
本書をわたしと同じような理由で敬遠している方は必読である。

日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか (講談社現代新書)
- 作者: 内山節
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/11/16
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