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小説家 星香典(ほしよしのり)のブログ。小説、映画、ファッション(メンズフォーマル)、政治、人間関係、食い物、酒、文具、ただの趣味をひたすら毎日更新し続けるだけのブログ。 ツイッター https://twitter.com/yoshinori_hoshi  youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UC0YrQb9OiXM_MblnSYqRHUw

アフターワクチン 第8回 その2

 

 由奈は同期の女の子。小柄で可愛らしい娘だった。弟の記憶では、由奈は弟に気があるらしい。だが、弟はまったく相手にしていない、というか、避けてすらいるようだった。
「ってことは、おまえも佐竹部長からなんか言われたのか?」
「なんか言われたどころじゃないよ、ワクハラそのもの。おそらく、わたしはもうちょっとしたらここにいられなくなるよ」
「じゃ、おれもおまえと同じ運命かも」
 由奈はビックリしたように、
「え、じゃ、裕二打たないのっ?」
「打たないよ。だって、集団接種も避けたんだろ?」
「うそっ、ちょっと感動した。じゃ、好きなアーティストの公演と重なってて、っていうのは避けるための口実だったんだ?」
 多分、それは口実じゃない。でも、僕は固まった笑みのまま頷いた。
「わたしアンタのこと見直したわ」
 由奈が打たない理由など、色々聞いてみたかったが、始業のベルが鳴って、彼女は鞄をひっさげ外回りに出てしまった。
 僕はPCを開く。裕二の記憶が勝手に仕事を進めてくれるだろう、と思っていた。が、甘かった。開くファイルまでは分かった。しかし、その先、僕はなにをしていいか完全にノーアイディアだった。しかたがないので、カタカタとキーボードを叩く真似をして、昼までの時間を過ごした。
 全く仕事をしていないのがバレる前に、僕は早退することにする。部長に、体調が優れないので退社してもいいか伺った。もともと、僕の仕事は来週まで入れていなかったらしい。
「な、だから言っただろ? 後遺症も侮れないんだよ。だから、ワクチンさえ受けていれば、感染しないし、後遺症になることもない。今から打ってこい。これは、上司としての命令じゃないぞ。知人としての助言だからな。みんなおまえのことを不安に思ってる。ワクチンを打ってないヤツと、同じ室内にいなければならない、そういうストレスをおまえは職場のみんなに与えてるんだ」
 非接種者をそういう風に見る人間もいる。ネットなどでそういう情報はあったが、自分が直接被差別民になってみると、やっぱり差別はよくないと思った。ワクチンを打った人間と、打っていない人間は違う社会を生きているようだった。
「なんだ、裕二、帰るのか?」
 机の上に広げたノートや筆記具を鞄にしまっていると、山沖先輩から声をかけられた。
「はい。やっぱり本調子じゃないんで」
「そっか。ゆっくり休めよ」
「あ、先輩。やっぱりワクチン打ってない人間と同じ部屋にいるっていうの不安ですか?」
 あいつが言ったんだろ? と呟き先輩は部長を指さす。
「おれは別になんとも思わない。だって、おれらだってこの前まで打ってなかったわけだし。でも、そういう問題じゃないんじゃないか?」
「そういう問題じゃないっていうと?」
「上手く言えないが、たとえば、みんなで盛り上がってる企画に一人で反対するヤツとか、あと、いつも飲み会に来ないヤツとか、そういうヤツが嫌われるってのもわからんでもない」
「なんとなく、分かりました」
「それぞれ、引っかかるところが違うわけよ。たとえば、おれはこういう性格だから、共産党のヤツとか、反日外国人とかが隣の席で仕事してたら面白くないと思うぜ」
 肌の色、宗教、ジェンダー、国籍、差別と区別は違うというが、同じではないにしろ、重なる部分は多い。ワクチン接種が、差別だ区別だと騒がれている時点で、肌の色、宗教、ジェンダー、国籍、などと同じ構造になってしまっている証拠だ。

 

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このブログはこんな風に小説の連載とか出来ればいいかな、と思って始めた。

2014年からやってるブログだけど、小説連載はこれが初めて。

映画のレビューや時事問題なども書きたいのだが、連載終わるまではストックかな。時事問題はこの小説が時事問題扱っているし。