文学・文具・文化 趣味に死す!

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第163回 芥川賞候補作 三木三奈「アキちゃん」(文学界5月号) を読んだ。

 

文學界 (2020年5月号)

文學界 (2020年5月号)

  • 発売日: 2020/04/07
  • メディア: 雑誌
 

 

 

ネタバレあり

 

ネタバレしないとレビューのしようがないので、ネタばらしすると、アキちゃんという女の子は今流行りのLGBTで、生物学的には男であるが、精神的には女の子なのである。

 

主人公は小学5年生。アキちゃんは同じクラスだ。アキちゃんに主人公はいじめられる。といっても、それほど辛辣ないじめではなく、主人公もいじめられている割には仲良くしているのである。それでいて、嫌いだと連呼する。

 

わたし的にこの小説の読みどころは、主人公の心の醜さだと思う。近年はLGBT肯定の作品が多いが、この作品はアキちゃんを否定している。

 

主人公は6年の一学期に転校する。しかし、大学で小学校時代の友人と再会して、アキちゃんのその後を知ることになるのだ。

 

アキちゃんのその後を知った主人公が思う最後の1行がいい。実にいい。

 

これは受賞の可能性がある。まだ他の作品を読んでいないのでなんとも言えないが、万人受けする読みやすさはある。ただ、これもアキちゃんが実はLGBTだったというミステリー仕掛けが減点になるかもしれない。あと、前々回の受賞作「むらさきのスカートの女」と雰囲気がかぶるのも気になる。

 

 

【第161回 芥川賞受賞作】むらさきのスカートの女

【第161回 芥川賞受賞作】むらさきのスカートの女

  • 作者:今村夏子
  • 発売日: 2019/06/07
  • メディア: 単行本
 

 

企画演劇集団ボクラ団義「飛ばぬ鳥なら落ちもせぬ」を観た

 

 

時をかける206号室が面白かったのでこっちも観てみたが、難解度はさらに増していた。また録音が均一ではなく、ときどき台詞が聞こえない。

 

この時間が入り乱れるというのはこの作者の手法なのだろうか。

 

時代は戦国時代。戦国時代の中でも時代が入り乱れる。そこに現代人までタイムスリップして登場してしまう。

 

まず使うべき役者が決まっていて、その役者に合わせて台本を書いているのだろう。話をややこしくするだけの人物が多すぎる。

 

そもそも、戦国時代の基礎知識がないと意味不明である。役者が台詞で説明するが限界がある。

 

話のあらすじは、「希代の極悪人、松永弾正久秀が本当は忠義に厚い善人だった」。まず、松永の悪人面を見せて、過去に戻り、これこれこういう事情がありました、という。

 

ただ、この解釈はさすがに無理がありすぎるのではなかろうか。仮に史実だとしても、舞台上のリアリティが感じられない。わたしがそう感じるだけかも知れないが。

 

あと、叫ぶ台詞が多い。演劇とは叫ぶものなのだろうか、それともこの劇団の特徴なのだろうか。ちょっと演劇に興味が出始めている今日この頃。

第163回 芥川賞候補作 岡本学「アウア・エイジ(Our Age)」(群像2月号) 読んだ 感想

最初は映写技師の話で、古い映画館の中身など知らないので、なかなか興味深く読ませてもらった。主人公は映画技師のアルバイトをしている。かなり詳細に映画上映の手順が書かれている。フィルムの扱い方、停電の時、コマ落ち、などなど。

 

163回芥川賞候補作でも書いたが、この映画館のアルバイトの一人に太宰治の子孫なるものがチラリと登場する。「辛気くさくて使えないやつ」「すぐにやめた」という、それだけの登場だ。話の筋には一切関係がない。

 

話の内容は、主人公がバイトをしている映画館にDOQな女が務め始める。そのDOQとの交友がメインだ。

 

始めに言ってしまうと、受賞は無理だ。理由はいくつかある。

 

一番わからなかったのは年代である。いつの時代の話なのか。主人公の現在が40代で20代のころを回想するという内容。主人公の現在が2020年だとすると、2000年にはインターネットも携帯もそろっている。

 

だが、主人公の20代は携帯もネットもない、どう見積もっても昭和なのだ。この時代に曖昧さは大きな減点になると思う。

 

2つ。ご都合主義である。主人公がちょっと当たりをつけて調査すると、主人公が必要とする情報が容易に手に入る。

 

3つ。2つ目と関連するのであるが、必要な情報が秩序正しく現れるので、物語の中の謎が、ピタリピタリと淀みなくパズルがかみ合うように解決する。ちょっとしらけてしまう。

 

面白いかつまらないか、といえば面白い。そして読みやすい。だが、芥川賞ではない。

 

第163回芥川賞候補作 - 文学・文具・文化 趣味に死す!

 

 わたしが読んだのは群像二月号。

アウア・エイジ(our age)

アウア・エイジ(our age)

  • 作者:岡本 学
  • 発売日: 2020/07/31
  • メディア: 単行本