文学・文具・文化 趣味に死す!

小説家 星香典(ほしよしのり)のブログ。小説、映画、ファッション(メンズフォーマル)、政治、人間関係、食い物、酒、文具、ただの趣味をひたすら毎日更新し続けるだけのブログ。 ツイッター https://twitter.com/yoshinori_hoshi  youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UC0YrQb9OiXM_MblnSYqRHUw

アフターワクチン 第11回 その1

現在、世界には68億人の人口がいる。それが約90億人になろうとしている。新しいワクチンや医療、生殖医療サービスの提供などが成果を上げれば、おそらく10〜15%は減少する。

 

ある大富豪の2010年TEDでのゼロ炭素スピーチの4:21から

 

 

アフターワクチン 第11回 その1

 

 日曜日。この時代の僕と理恵との待ち合わせは、御茶ノ水駅、水道橋口に十八時だった。僕は一時間ほど早めに行って、三省堂書店などで時間を潰す。書店の入り口には新聞が積まれていた。多くの新聞の一面は昨日のデモだった。
 十七時半くらいになりこの時代の僕からラインが届いた。
「急な仕事が入って行けなくなった。理恵だけ行くから。好きなものなんでも食べて」
 と書かれている。やっぱり記憶の通りだった。結婚式の一週間前の打ち合わせの後、新店舗で問題が起こって、僕は夕方駆けつけた。この時代の僕も、同じ歴史をなぞっている。
 ただ、歴史では、このときすでに弟は死んでいて、弟との待ち合わせなどはしていなかった。僕が弟の体に入り、弟が生き続けることによって、歴史は変わっている。
 だとすると、この新聞に載っているデモも、変更された歴史の賜物かも知れない。それは、僕がこの時代に来てしまったために起こったのか、それともは関係なく、パチンコの玉のように、歴史というものは流れるたびに違う軌跡をたどるのか。
「ごめん、裕二君、待った?」
 理恵は改札を抜け、笑顔で僕に手を振る。
 2031年に死んだ理恵。僕の妻。生きている。言葉が出なかった。
「……裕二君、ごめん、怒ってる?」
「え、いや、全然、そんなことないよ。理恵……先輩」
 僕と弟は同じ高校だった。だから、弟と理恵、高田も同じ高校。弟は理恵や高田のことを先輩と呼んでいた。
「ごめんね、達也さ、突然仕事入っちゃったみたいで」
「いいよ。平気。さっきラインもらったし」
 僕たちはどこへ向かうのでもなく歩き出した。とりあえず、線路沿いに、聖橋口まで行って、ニコライ堂を右手に見ながら本郷通りを下って小川町の方へ。
「裕二君、コロナ罹ったんだって? 大丈夫だった」
「全然大丈夫でしたよ。もう治ったし」
「後遺症とかは?」
 僕はジェームズ・ボンドよろしくニヒルに笑って見せた。ちょうどノー・タイム・トゥ・ダイが公開された時期だ。007でもこのワクチンの陰謀は止められなかったということだ。
「大丈夫そうだね」
 僕の仕草を見て理恵は笑った。
「なに食べましょう」
「なんでもいいよ。回復祝いだから、なんでも奢ってあげる」
「なんでも。それは迷うなぁ」
 僕は今の彼女を知っている。これからの彼女も知っている。彼女はこれから、この時代の僕と結婚し、いろいろなことをして、多くの場所に行き、時には喧嘩もして、仲直りして、たくさん話し、数え切れないほど笑い、心を満たし、結婚の時本当は流暢に日本語を話す外人神父がわざとらしい片言で言った、「死が二人を分かつまで」愛しあった。少なくとも僕はそう信じている。

 

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うおー。昨日落とした(T-T)

プロットが大幅に膨らんできたから、ちょっと書き直した方がいいかも。

今月中には脱稿したい感じ。

そうしないと、時代に小説が追いつかない。

007見に行きたい!

アフターワクチン 第10回 その5

 

 いつかは誰かにバレることは覚悟していたが、いきなり言われたので驚いた。
「なんでわかった?」
「は? バカ? 冗談に決まってんじゃん」
 僕も冗談めかして笑って見せた。三杯目の生を飲み干して、お変わりを頼む。バレてないのはよかったが、信じられていないっていうのも、自分が認められていないようで複雑な心境だった。
「アンタはどこから見ても裕二。でも」と由奈は眉間を寄せて、「裕二は字が下手だった。社内イベントで、ほら、式次第みたいの書いて壁に貼ったでしょ。アンタ子どもの頃習字習ってたとかで、書かされてたけど、笑えるくらい下手だったじゃん」
 裕二は僕と一緒に習字教室に通っていた。でも、すぐにやめてしまって、僕だけ大人になっても続けていた。
「あれは、わざと下手に書いた」
「ふーん。そうは見えなかったけど。最近変なことは確か。仕事も忘れちゃう。ワクチンも急に嫌いになって、わたしはなんか避けられてたような感じだったけど、今はそんな気がしないし、デモなんか絶対に来ないと思ってたけどアンタは来た。お酒だって、そんなに好きじゃなかったよ、つきあいでは飲んでたけど」
 そう言えば、裕二はいつも控えめで、僕が二杯飲むと一杯飲む、みたいな感じだった。ほんとは酒、好きなんだよ。と運ばれてきた四杯目も半分くらい一気に飲む。
「どっちだよ。おれは裕二か? それとも裕二じゃないのか?」
「アンタは裕二だよ。それは間違いない。ただ、コロナに罹った後性格が変わったのも間違いないと思う」
 人間の中身が入れ替わりました、などという話、信じろという方が無理なのかも知れない。
「まぁ、この際、おれが誰であるかはひとまず置いといて、信じてもらいたいのは、おれが未来で見てきたこと。ワクチンパスポートは実用化され、来年には接種が義務化される。毎年一発ずつ打たれて、五年後にはみんな死ぬ体になっちまってる。だから、おれたちはこの災害を止めなければならない」
「昔のアンタは、ちょっと頼りない感じで、優柔不断で、世間の空気に流されまくる感じで、でも、すっごく優しいとことか、同期だったし、わたしの相談や悩みもよく聞いてくれたし、それで、ちょっと好きだった。付き合えたらいいかなぁ、なんて思ってた。でも、今のアンタにはそんな風には少しも感じない。アンタと恋愛しようなんて思えない」
「嫌われた、かな?」
「違うよ。今、アンタとわたしは、同士だ」
 YAHOOサイトのトップニュースにもデモが載っていた。これほど大きく取り上げられたら、過去の僕だって気がつかないはずがない。ひょっとしたら、僕が過去に来たことによって、歴史が変わったのかも知れない。
 この日も由奈は普通に帰っていった。飲み過ぎた酒で、足元がちょっとおぼつかなかったが。月曜からの仕事の段取りはまかせて、と改札の向こうで手を振っていた。
 部屋に戻って、ネットを開くと、YAHOOのトップに今日のデモが載っていた。SNSでもデモ、暴動は大きく取り上げられていて、賛否は分かれていた。もう六割がワクチンを打っていて、ワクチン非接種組はどんどん少数に。でも、接種した人でさえ、ワクチンパスポートはおかしいと声を上げてくれている。二回打ったが三回打つのは嫌だという人もいる。話が違うと言う人も。ワクチンの効き目が科学的に揺らいできている。この声を、大きくしていかなければならない。

 

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緊急事態宣言開け初の飲み会。

ビールの4,5杯、どうってことないだろ。

と飲んでいたらベロンベロン。

随分弱くなったものだ。

アフターワクチン 第10回 その4

 

 どうせ弟は傷薬も絆創膏も持っていないだろう。持っていたとしても、どこにしまってあるか見当もつかないので、僕はタクシーを降りると、由奈に鍵を渡して、近所のドラッグストアで買って帰った。
「ごめん、傷薬まで買ってもらっちゃって」
「いいよ。どうせ使うもんだし」
 由奈は傷口に泡を吹きかける。この泡が効くんだよね、などと呟いていた。スカートに傷薬がつかないように、太ももまでたくし上げていた。あらわになった素足をじろじろと見るものではないので、僕はさっきのデモがニュースになっていなかネットを探す。速報という形で、警官隊とデモ隊が衝突。催涙弾を使用。双方に負傷者。と出ている。さすがに無視できるレベルではない。SNSでも取り上げられていた。
 デモの映像を見ると、あのときの音、振動、空気の匂い、熱、そういうものが次々と呼び起こされる。いままで、いろいろな国で起きていたデモや暴動を見ても、全く感じることがなかったが、その場に自分がいたという記憶が、映像から感覚を呼び覚ましていた。
「ありがと。たすかったよ」
 治療を終えた由奈から、傷薬と絆創膏の箱を渡される。
 机の上に置いてあるレターケースにしまおうと、引き出しをあけると、そこに全く同じ傷薬が入っていた。
「あれ、あった」
 ふふふ、と由奈が笑っていた。
 引き出しのなかの傷薬を振ってみると、中身もほぼ満タン。
「これ、やるよ」
「大丈夫。うちにもあるから」
 弟の引き出しは、傷薬が二つになってしまった。
 由奈は僕が出しっ放しにしていた習字道具を指し、
「習字の練習?」
 習字の練習は重言ではないだろうか、などと考えつつ、
「そう」
「この前来たときとなんか違うと思った。墨の香り。落ち着くね」
 膠の腐臭を紛らわすため、墨には龍脳などの香料が練り込まれている。
 やらない人からしてみると、そうなのかも知れない。僕はこの匂いになれてしまっていて、気にしたことがなかった。
「ほら、さっきのデモ、早速動画上がってるぜ」
 由奈も自分のスマホを使って検索を始めた。
 次々と他の動画も上がっていて、最前線では警官隊に袋だたきにあっているものもいた。デモ隊も負けていない。石を投げる者、つかみかかる者、しかし、警官隊の戦力の前に総崩れだ。
「わたしの怪我なんかかすり傷」
 スマホを握る由奈の手は震えていた。
 僕たちはあの場所にいたから現実感があるけれど、いなかった人たちが見たら、これ日本? と首をかしげるだろう。警官隊に制圧される絵は、オーストラリアやイタリアの反グリーンパス暴動と同じだった。ちょっと前の香港の騒乱と同じだった。
 八時過ぎに僕たちは飯を食いに出た。一昨日と違って、ファミレスも開いていたが、緊急事態宣言が開けた街は歪んで見えた。灰色に見えた。緊急事態の方が僕たちにとっては自然で、緊急事態が終わるということは、新しいなにかが始まるということ。
 一昨日と同じ店に入って、同じようなものを飲み食いした。明日、仕事がないからと由奈は三杯目も豪快に飲み干した。
「裕二、喋んなくてよかったよ。ぜったい公安にマークされた。もう会社もクビかも」
 ハハハ、と酒の勢いで彼女は笑っていた。
「あのときさ、由奈、おれの未来の話信じるって言ってたじゃん。ほんとに信じてるの?」
「うん。信じてるよ」
「どうして?」
「だってアンタ、裕二じゃないでしょ?」

 

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意外と大長編になってきちゃった感じ。

新人賞や文学賞用の小説だと規定枚数があるので、それに併せるが、この小説は誰にも規定されない。

終わらせたいところで終わらせられるし、命がある限り続けることも可能。

枚数は気にせず、筆の赴くまま書く。

プロットは現在膨張中である。