文学・文具・文化 趣味に死す!

小説家 星香典(ほしよしのり)のブログ。小説、映画、ファッション(メンズフォーマル)、政治、人間関係、食い物、酒、文具、ただの趣味をひたすら毎日更新し続けるだけのブログ。 ツイッター https://twitter.com/yoshinori_hoshi  youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UC0YrQb9OiXM_MblnSYqRHUw

ドラえもん わたしと最強の魔法使い

地球の平和を守るため、ドラえもんたちと駅へ続く道を歩いていた。すると、道の向こうに仮面をつけた魔法使いが立ちふさがる。あいつはめちゃくちゃ強い。どうやったらあいつを倒せるのか。わたしはノーアイディアだ。のび太くんたちも困っているようだった。

「ここはぼくが引き受ける! のび太くんたちは先に行ってて!」

ドラえもんは真剣なまなざしで言った。
わかった、とわたしたちは回り道をして駅へと走った。
無事駅までたどり着いた。戦いの音は聞こえない。静かなものだ。わたしたちはホームのベンチに腰を下ろす。電光掲示板を見れば、電車がくるまであと4分だ。

ドラえもん、大丈夫かな」

ともらしたわたしのつぶやきを拾うように、のび太くんが、

「大丈夫だよ。ぼくらがいないと、相当えげつない使い方するからね」

ジャイアンスネ夫、しずかちゃんも頷いていた。
確かに、彼はピンチを切り抜ける道具がいくらでもあるにもかかわらず、出し惜しみしたり、見当違いの道具を出したりしている。彼が本気になれば、それこそ世界などは赤子の手を捻るようなものであろう。そして、のび太くんたちはそのことを知っていて、冒険を楽しんでいるのである。
心配をして損をした。そんな夢を見た。

 

 

 

散り花 乙川優三郎 を読んだ

 

 

見事に人間模様を描ききった小説。すが、という14歳の少女が主人公。時代は明治初期だろうか、銚子、漁村、漁師の父親は台風で死亡、幼子&病弱の弟を抱えているという、目も当てられないシチュエーションだ。

すがは海女になるが、大波に殺されそうになる。海女は辞めたい。そこで、小料理屋に勤める。最初は、少しの金でもいいから、という小さな欲が、男と寝るだけでひと月分の給金を稼げたり、そんなことをしているうちに、下駄が欲しい、着物が欲しい、とだんだん欲深い女に変わる。まさに、少女から女へである。

小料理屋の亭主は最初は楽隠居の世話でもさせようとしていたが、自分で稼げるようになったすがを見てそれをやめる。

三人称他視点で、様々な角度から人間の彩模様を浮かび上がらせる。レベルの高い作品だ。

 

これで9巻も終わりである。次は8巻を読もうと思う。

 

 

清水夫妻 江國香織   ピラニア 堀江敏幸 を読んだ

 

 ↑に収録。

 

清水夫妻 江國香織

一風変わった清水夫妻。ある日、飼えなくなった猫を譲ったことから、深いつきあいになる。清水夫妻の趣味は新聞の訃報欄をみて葬式に行くこと。主人公も清水夫妻と仲良くなるにつれて、葬式が趣味になってしまう。

葬式という非日常に通うことによって、そこで垣間見られる生と死の境目、生から死へ移行した瞬間の人々の反応、そういうものが上手く描かれている。

主人公は恋人から求婚されるのであるが、それを断ってしまう。その理由が葬式を想像できないから、という不思議な感覚に陥る小説。

 


ラニア 堀江敏幸

一見するとヤオイ小説である。相良さんという行員と、安田さんという中華料理店のマスターの話で、それぞれの生い立ちのようなものが描かれている。どちらかというと安田さんが主人公だろうか。

なぜ、タイトルがピラニアか。安田さんは熱帯魚が好きで、いろいろ飼っているうちに、ピラニアを譲り受けることになる。安田さんは自分の料理が美味いかどうか自信が持てない。袖に付いたラーメンの麺をピラニアに食わせる。しかし、ピラニアは美味いのかまずいのか、やっぱりその表情はわからない。

しかし、この小説は面白い。ヤオイだからといってつまらないということはない。普通の人間の人生などはほとんどヤオイで、だからといってつまらないという訳ではない。他人のちょっとした半生を覗いた、そんな作品である。