
日本文学100年の名作第9巻1994-2003 アイロンのある風景 (新潮文庫)
- 作者: 池内紀,松田哲夫,川本三郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/04/30
- メディア: 文庫
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↑に収録。
清水夫妻 江國香織
一風変わった清水夫妻。ある日、飼えなくなった猫を譲ったことから、深いつきあいになる。清水夫妻の趣味は新聞の訃報欄をみて葬式に行くこと。主人公も清水夫妻と仲良くなるにつれて、葬式が趣味になってしまう。
葬式という非日常に通うことによって、そこで垣間見られる生と死の境目、生から死へ移行した瞬間の人々の反応、そういうものが上手く描かれている。
主人公は恋人から求婚されるのであるが、それを断ってしまう。その理由が葬式を想像できないから、という不思議な感覚に陥る小説。
一見するとヤオイ小説である。相良さんという行員と、安田さんという中華料理店のマスターの話で、それぞれの生い立ちのようなものが描かれている。どちらかというと安田さんが主人公だろうか。
なぜ、タイトルがピラニアか。安田さんは熱帯魚が好きで、いろいろ飼っているうちに、ピラニアを譲り受けることになる。安田さんは自分の料理が美味いかどうか自信が持てない。袖に付いたラーメンの麺をピラニアに食わせる。しかし、ピラニアは美味いのかまずいのか、やっぱりその表情はわからない。
しかし、この小説は面白い。ヤオイだからといってつまらないということはない。普通の人間の人生などはほとんどヤオイで、だからといってつまらないという訳ではない。他人のちょっとした半生を覗いた、そんな作品である。