文学・文具・文化 趣味に死す!

小説家 星香典(ほしよしのり)のブログ。小説、映画、ファッション(メンズフォーマル)、政治、人間関係、食い物、酒、文具、ただの趣味をひたすら毎日更新し続けるだけのブログ。 ツイッター https://twitter.com/yoshinori_hoshi  youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UC0YrQb9OiXM_MblnSYqRHUw

マリネッラのネクタイ

六本木はおしゃれな街で、レストランも気持ちよく食事ができて、そんな空間にいるとつい身の程を忘れてしまう。気持ちが大きくなって、友人と別れた後、ミッドタウンにマリネッラを見に行った。

わたしはそれほど高いネクタイを持っているわけではない。ピエールカルダンアルマーニ、五大陸、クリケットダンヒルなどを普段絞めている。

マリネッラはミッドタウンの入り口のほど近いところにあり、すぐに見つけることができた。その店の小ささに驚いた。ネクタイを売るのに広い売り場が必要かといえばそんなことはなかろうが、駅の中にあるニューデイズよりも小さい。ミッドタウンの中になかったら、怪しいパチモン店としか思わないだろう。先客が一人いて賑わっていたので、ミッドタウンを1周してからもう一度行った。今度は店員しかいなかった。

マリネッラは高い。そこらのスーツよりも一本のネクタイの方が高い。もちろん買うつもりなどなく、いわゆる最高級と言われるものを見てみたいと思っていただけだ。

店に入って、一番最初に目についたのはセッテビエケマ無地のネクタイである。無地でもいろいろ種類があり、ヘリボーン柄、生地にざらつき感のあるもの、光沢のあるもの。
「なにか気になるものがございましたら」
「紺が気になるね」
とわたしが言うや否や、とても気の利く店員はどこからともなく数種類の無地で紺のネクタイを出してきた。ネクタイを袋から出してノットの形を作って並べてくれる。私はそれを胸元に当てて鏡で確認するのだが、それをしたが最後である。やはりよいネクタイはよい。見栄えがまるで違う。このネクタイを残して帰ることなど到底できなかった次第である。

絞め心地などは追ってレポートしたい。

 

 

 

 

 

 

www.marinellatokyo.jp

 

靴紐は本来きつく縛るはずであるが 007の靴紐がユルい件

紳士諸賢は紐靴の靴紐は硬く縛るべきであり、飾り程度に結んでスリッポン状態で履くのは邪道と習っているはずである。わたしもそのように習った。しかし、007ドクター・ノーでは驚愕のシーンがある。

それは、家に帰ったボンドが不穏な気配を感じる。ボンドは自身の足音を消すために、靴を脱ぐのだが、なんと片足のかかとにもう片足を引っかける形で、つまり、飲み屋の座敷に上がるおっさんのように、手を添えることもなく靴を脱いだ。それも、いとも簡単に脱げてしまっているのである。ボンドは靴紐をきつく縛ることなく、スリッポンのように紐靴を履いていたということである。それも、ブラックタイの正装で、だ。

演出上仕方のないことかも知れないが、そのように靴を英国人が履くということがあるということでもある。意味深なシーンであった。

日本は未だ靴を脱ぐ機会が多い。わたしは宴会がある日などは、あえて靴紐をきつく縛らない。脱ぐときに時間がかかり目立ってしまうからだ。しかし、足だけで靴が脱げるほど緩くは履かない。無論、頑張れば足だけでも脱げるのだろうが、そんな脱ぎ方をしては靴が傷んでしまう。履くときも、トントン履きはしない。靴べらがなければ履くのが難しいほどには紐を締めている。そもそも、ジャストフィットの靴を履くには、靴べらが必要なのだ。

あのシーンはスパイ映画的観点でなく、ダンディズム的観点から描写するなら、非現実的であったとしても、ボンドは紐を解いて靴を脱ぐべきであった。もちろん、手を添えて。

 

 

 

007 ジェームス・ボンドについて。

べつに毛嫌いをしていたわけではないが、この歳になるまで007を観たことがなかった。わたしの近所のTSUTAYAは貧弱な部類で、3年も通っているとめぼしい映画はほとんど観尽くしてしまった。たまたま007フェアをやっていて、そこで手に取ったのがカジノロワイヤルである。初めて見た007である。

時を同じくして、Amazonプライムに入会した。するとAmazonプライムでも007フェアをやっていた。カジノロワイヤルには慰めの報酬と言う続編がある。私が見た2作目である。ジェームスボンドはファッションリーダー的存在であるという意見はよく聞く。だからオメガもボンドに目をつけて時計の宣伝をしているのだ。

当代のジェームス・ボンドであるダニエル・クレイグのかっこよさは非の打ち所がない。ただ同時に意表を突かれることもなかった。有り体に言うと特筆すべきことがないのだ。

古い映画は嫌いでは無いが、古いアクション映画は白ける。だから、全部見るつもりなどなく、ちょっとチェックしてみるつもりで007の最初の作品、ドクター・ノーを見た。これが驚くほど面白かった。そもそも、ドクター・ノーはアクション映画ではない。少なくとも前半は。後半は残念な感じのアクションが繰り広げられる。もし、ショーン・コネリーのファッションチェックをするだけなら、後半は観る必要はない。

ショーン・コネリーは格好良すぎた。ダニエル・クレイグショーン・コネリー、どちらがかっこいいか、などというのは愚問である。比較にならない。比較にならないと言う意味は、比較する対象にならないという意味である。ダニエル・クレイグのかっこよさは、コマンドに出てくるシュワちゃんのかっこよさと通じるものがある。もしダニエル・クレイグジェームス・ボンドしか見たことがない人は、そのイメージをショーン・コネリーに重ねないほうがいい。ジェームス・ボンドという同姓同名の別人である。

まず、ショーン・コネリーのスーツはベルトレスだ。その代わり、ヒップを包み込むように股上が長く、ずり落ちないようになっている。ミディアムグレーのスーツに紺の無地のネクタイ。ミニマムのコーディネートである。じつに決まっている。どこでスーツを仕立てているか。サヴィル・ロウである。わざわざ映画の中で、「どこで仕立ててる?」「サヴィル・ロウだ」という会話がなされる。